自分にない新たなスタイルを見つける上で、映画ほどいいサンプルはない。で、昨今ではどうなのか?さまざまな映画の衣装を手掛け、無類の映画好きとしても知られるスタイリストの伊賀大介さんに聞いた。#GINZA Standard CLUB
映画から生まれる新スタイルについて、伊賀大介さんに聞いた

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話を聞いた人:伊賀大介
いが・だいすけ>>1977年東京都生まれ。96年より熊谷隆志に師事後、99年、22歳でスタイリストとしての活動開始。映画の衣装もよく手掛けており、最近の担当作に『8番出口』『ファーストキス 1ST KISS』『サンセット・サンライズ』『PERFECT DAYS』などがある。
女性クリエイターが活躍する現代映画
その世界観に新スタンダードのヒントが
「『アニー・ホール』のダイアン・キートンとか『ファイト・クラブ』のブラッド・ピットのように、『このルックが時代の象徴になっちゃったよね』って映画は、ここ10年じゃたぶんないと思うんですよ。ただ、それは配信も含めて観られる数が膨大になったからであって、面白い作品がないって話じゃないし、むしろ映画をめぐる状況はどんどん新しくなっている。そして、そういう新しい映画が醸し出す雰囲気とかムードに、観た人が勝手にインスピレーションを得たスタイルが、スタンダードになっていく可能性はあるのかなと」
その新しい傾向として伊賀さんが注目するのは、『バービー』のグレタ・ガーウィグをはじめとする女性クリエイターの躍進だ。中でも、重要作はオリヴィア・ワイルドが監督した青春映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』だという。
「高校卒業間際の一夜を描いた作品ですが、いろんな人種やセクシュアリティの若者が自然と描かれているのが今っぽい。一番モテる男子はアジア系だし。しかも、昔みたいにダサい奴がイケている連中に憧れているって話でもなく、主人公の女子二人も含めてみんなイケているのが新しい。これからの時代の『ゴーストワールド』的なポジションの作品になるんじゃないかな」
実際、主人公たちがおそろいで着用するブルーのジャンプスーツは、〝ロージー・ザ・リベッター〟というフェミニズムのアイコンがモチーフになっており、ファッションにおいてもメッセージが表現されている。
「監督ではないけど、エマ・ストーンはプロデューサーとしても優秀。自身も出演しているヨルゴス・ランティモスとのコンビ作は、これからの時代の〝オシャレなカルト映画〟の定番になるんじゃないですかね。ファッションに関して言えば、『憐れみの3章』の3話目でエマが着て踊る茶色いパンツスーツなんかは、今の若い人が真似したくなりそうな感じだし。あと、監督は男だけど、『TAR/ター』でケイト・ブランシェットが演じた天才作曲家の人物像は、女性たちの主張がど真ん中にある今の映画界ならでは。以前だったら100%男が演じていたような役柄ですから。彼女がスーツを仕立てるシーンから始まるのですが、格好もめちゃくちゃスタイリッシュ。ある種の宝塚的な、女性が憧れるかっこいい女性っぽさがあるというか」
そうした流れを日本において体現するクリエイターとして、伊賀さんが絶賛するのが『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督だ。
「あれって今っていうか今日の話じゃないですか。今から町田に行けばたぶんああいうことが起こっているというか。河合さんのファッションも、ちょっとヘンテコなロンTを着ていたり、その〝今日っぽさ〟がうまく落とし込まれていてよかったですよね。知人の高山エリさんがスタイリングをやっていたので、褒めメールを思わず送りました。ほとんどフリマサイトで集めたらしいです。そういえば、ドラマシリーズだけど、ルカ・グァダニーノが手掛けた『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』の主人公の少年も、〈ラフ・シモンズ〉や〈コム デ ギャルソン〉のアーカイヴを着ていて、海外のメルカリみたいなところで買ったんだろうなっていうリアリティがありましたよね」
ルカ監督といえば、ジョナサン・アンダーソンが衣装を手掛ける近年の作品も忘れてはいけない。伊賀さんが思い入れがあるのは、テニス映画『チャレンジャーズ』だ。
「スタイリングに関して言えば、ゼンデイヤに〝I TOLD YA〟ってプリントしたTシャツを着せていて、久しぶりのTシャツ映画って感じでしたよね。冒頭に言った通り、今という時代を象徴するこれらの作品の世界観やムードに影響を受けたファッションが、スタンダードになる可能性があるのかなと思いますね」
Text&Edit_Keisuke Kagiwada







