小さな料理 大きな味 ⑬
塩卵
始まりはピータン、皮蛋だった。
白身はぷりっと濃茶色でゼリーに似ていて、黄身はとろとろねっとり黒いあれ。中国の食べ物で、アヒルの卵を石灰や木炭などを混ぜた粘土と籾殻でまわりを固めて貯蔵して作られる。ざくっと刻んで豆腐や香菜、ごま油と和える皮蛋豆腐は好き過ぎて困る一品だ。おなじ中国の塩卵にも目がない。アヒルの生卵を塩水に一カ月以上漬けて作るのだが、きっちり塩味が利いてうまい。
でも、どんなに好きでも皮蛋を自分で作るのは無理だし、生卵を塩水に漬ける塩卵は管理がむずかしそうだ。
そこで、考えた。
塩卵は、べつの方法で簡単に作れるんじゃないか。
殻を剝いたゆで卵をそのまま塩水に漬ければいいかもしれない。
さっそくやってみた。そうしたら大成功だった。
これが一年半ほど前のこと。以来ずっと、冷蔵庫のなかに塩卵を切らしたことがない。
塩卵は、塩水のなかに浸かったまま、出番待ち。でも、ただ塩水に入っているんじゃない、ゆで卵が着々と塩味を蓄えている途中、つまり、塩卵に進化中。ひと晩置けば、ほのかな塩味。二日、三日……だんだん塩味の輪郭がはっきりする。四日も経つと、白身の水分がほどよく抜け、塩味が内側まで染みこんでぷりっぷり……どのタイミングでも、いつも満足感がある。
そのまま丸かじりすることもあるし、トーストにはさんで塩卵サンドを作ることもある。あとから味をつけるより、最初から塩味を染みこませる塩卵は、きゅっと締まったキレのいい味に変化するところが萌えポイント。料理にくわしい友人に教えたら、「わあ、すっごくおいしいミモザサラダができそう!」。さすがだなー、お洒落だなー。ものすごく感動した気持ちは忘れていないが、しょっちゅう丸かじりしている私だ。
最近の発見は、白ワインや日本酒にも合うってこと。そう、酒の肴にもぴったりなんです。塩卵をちびちび食べていると、唇にほのかな塩気がつく。これがいい。さりげないというか、奥ゆかしいというか、やってくれるじゃないか塩卵、すてきな贈り物をありがとうと感謝が募る。