小さな料理 大きな味 21
素揚げのススメ
「あたしの好きなものはね」
地下鉄の電車の席のはじに座っていたら、すぐ横に立っている女の子が連れの男の子に話し始めた。
「春巻、あじフライ、鶏の唐揚げ、コロッケ、とんかつ……」
あ、わかった、と男の子が割りこんだ。
「茶色いやつだ!」
「正解!」
そして、「揚げ物には勝てない」と話は盛り上がっていった。なんの異論もない。でも、そこに付け足したいものがあります。
素揚げ。言葉の響きからして、きつね色の香りがする。
素揚げは、すっぴんの揚げもの。おなじ茶色い仲間だけれど、衣も味つけもなし。むずかしいことは一切ない。
冬においしくなる野菜が、素揚げにはとても合う。れんこん、ごぼう、かぼちゃ、じゃがいも、かぶ、にんじん、大根……なんでも。
れんこんなら、皮つきのまま大ぶりの乱切りにして(がつんと叩き割って不揃いにするのが、お勧めのやり方)、よく水気を取ったのを、鍋に多めに注いで熱した油で揚げる。油の量は多くても、少なくても。たっぷりの油なら数個ずつ入れてじゅわー、じゅわーと中火で揚げればいいし、1センチくらいの油なら、菜箸でひっくり返しながら。引き上げるタイミングは、全体がこんがりきつね色になったらもうそれで。余熱でも火が通る。