小さな料理 大きな味 38
包む話
大きなものでくるり。その意味だけでいえば、手巻き寿司に似ている。
でも、海と山ほどの違いがある。おいしさもまったく別ものだ。 「包む」という魅惑の食べ方について語りたい。とはいえ、複雑な包み方があるわけではなく、ぱくっと口に運ぶだけ。だけど、そこには驚くべき深い世界があり、味覚の複雑さにも気づかされる……そんな話だ。 「包む」という食べ方を、私は韓国料理に教わった。
朝鮮半島には包んで食べる文化があり、「今日はサムパプにしよう」と言えばご飯(パプ)を包んで(サム)食べることを指すくらい、ポピュラーな食べ方だ。包む材料のバラエティはすごい。サンチュ、レタス、ゆでたキャベツの葉、かぼちゃの葉、豆の葉、えごまの葉、白菜、肉厚のわかめ……外側の〝道具〟として包めるものはなんでも生かそう、使っちゃおう、そんな貪欲さがいっそ気持ちいい。しかも、数種類を適当に重ねて包んだりもする。外側が海苔一辺倒の手巻き寿司とは別種の食べ物だと思うのは、こんなところにも理由がある。
中身もまた無限大。包んじゃいけないものなんかない、〝包みたければなんでもアリ〟のアバウトな世界だ。刺身も包むし、焼き肉も包む。ただの白飯に味噌をつけて包むだけでも、サムパプは成立する。あるとき、韓国人の友人が、刺身にわさび「しか」つけない日本での食べ方を「もったいないと思ってしまう」と遠慮がちに打ち明けたことがある。日本の刺身はとても好きだけれど、「せめてサンチュがあったらな」「包みたい欲がどうしても頭をもたげてしまう」と告白するのを聞いて、「包みたい欲望」が痛いほど伝わってきた。緑の葉っぱやにんにくやサムジャン(たれ)がいっぺんに口のなかで混じり合う複雑な味覚に馴れていると、わさびと醬油がもの足りないと思ってしまうのは当然の流れ。
それほど、包むという複雑なおいしさには習慣性がある。もっといえば中毒性がある。そして、私にもしっかり包み癖がついている。 ひとつだけ、包み方にはコツがある。ぎゅっとしっかり、空気を追い出しながら全体を強くまとめる。
みっちりと密度の濃い一個をつくるイメージです。遠慮せず、かっちり包んで、指でホールド。ふわっと包んでぐずぐずのスキマが生じてしまうと、おいしさは半減する。
ベストな包み方はこう。
①掌の上に一枚を広げ、具を大きい順から重ね、ちょんとたれをのせる。
②下側を上向きに折る(中身の落下防止対策)。
③右側、左側をそれぞれ中心に向けて折る(狭く折ると口に入れやすい)。
④おしまいに上側をかぶせ、ぎゅっとまとめる。
できるだけ小さくきゅーっと包んでしっかりつまみ、大きな口を開けてひと口でぱくっと頰張ってください。行儀よくちょこちょこ囓ったりしないのも、包んで食べるときのお約束だ。