「スーパードライは、すっきり」「プレミアムモルツは、香り豊か」と、おなじみのビールにも違いはありますよね。でも、日本でポピュラーなビールの多くはピルスナー(*1)というワンスタイルだということをご存知でしょうか。実はコレ、〝ビール界〟で考えれば、 ほんの一部なんです。
対して、最近よく聞く「クラフトビール」は、自由で独創的。独立系メーカーが、100種類以上にものぼるビアスタイル(*2)の中で試行錯誤を繰り返し創る、クリエイティビティを感じる飲み物なのです。
クリエイティビティ? そんなビール、本当においしいの? なんて思った方も、少しおつきあいください。
私が初めてクラフトビールに出会ったのは、大学卒業後の就職先「嬬恋高原ブルワリー」(*3)でした。原料は、麦芽とホップと酵母と水だけなのに、組み合わせや微妙な調整で、こんなにも違う味になるのか、とビックリ。それまでは敬遠していた黒ビール(*4)も、麦の香りがして意外とおいしいんだ、と発見もしました。
コンビニの定番になりつつある「常陸野ネストビール」(*5)は、日本酒の蔵元らしく米や麹などを使っていたり、「水曜日のネコ」(*6)は、コリアンダーやオレンジピールを香料として使っていたり。クラフトビールの種類の豊富さや味わいの奥深さは恐るべし! その面白さに、すっかりハマってしまいました。
*1 ピルスナー 黄金色のラガービール。軽い口当たりと透き通った美しさが特徴。
*2 ビアスタイル 色、風味、度数、作り方、などによるビールの種類。ペールエール、スタウト、ヴァイツェン、etc.
*3 嬬恋高原ブルワリー 群馬県の嬬恋村にある醸造所。 www.tsumabru.com
*4 黒ビール 濃色の麦芽を使った、色が黒いビール全般を指す俗称。瀬尾さんがクラフトビールに目覚めたきっかけは、〈嬬恋物語 アイリッシュスタウト〉。
*5 常陸野ネストビール 茨城県の木内酒造が1996年にスタートしたビール。海外でも人気。 hitachino.cc
*6 水曜日のネコ 軽井沢のヤッホーブルーイングによる、ベルジャン ホワイト。
yohobrewing.com/suiyoubinoneko/pc/
そして2013年にブログ「ビール女子」(*7)を立ち上げ、知識も、人脈も、活躍の場も、どんどん広がってきたのです。
たとえば「ビール女子」で知り合ったA子は、日本の色をテーマにした「COEDO」(*8)で味の違いを知り、ビールの面白さに目覚めました。一方B子は、デンマーク発「Mikkeller」(*9)の味に衝撃を受け、HPを覗いてますます惹きつけられ、さらには「弟子的存在の『TO ØL』(*10)はどんな味?」と追究を続ける日々。多様性のあるクラフトビールには、〝次は何だろう?〟と、のめり込んでしまう魅力があるのです。
ならば、いますぐクラフトビールを! と思う方々に、入門編の楽しみ方をお伝えしますね。
夏真っ盛りのいま、ヨーロッパのビールが好きなM子は「アルコール度数5〜6%くらいのセゾンビール(*11)」をオーダーするのだとか。普段のM子は8〜10%が当たり前なので意外でしたが、「この時期の1杯目としては、オススメ」とのこと。私は、実はお酒に弱いので、アルコール度数は4・5%程度のセッション系(*12)についつい手が伸びてしまいます。たとえば「BREWDOG DEAD PONY CLUB」(*13)は3・8%の超爽快系。ジューシィでトロピカルな香りもして、「コレ、ビール?」って驚く人もいるかもしれません。
*7 ビール女子 女子がビールを楽しむためのWEBサイト。2016年まで瀬尾さんが編集長を。 beergirl.net
*8 COEDO 埼玉県川越市のクラフトビールブランド。 www.coedobrewery.com
*9 Mikkeller 世界中のブリュワリーでビールを造る、ミッケル・ボルグ・ビャーウスによる。B子がハマったきっかけは、バーレーワイン。「初体験の味」! mikkeller.dk 日本での取り扱いは、whisk-e.co.jpを(*13も同じ)。
*10 TO ØL デンマーク・コペンハーゲンの醸造所。ラベルのデザインも必見。 to-ol.dk
*11 セゾンビール ベルギー発祥のビアスタイルのひとつ。爽やかな酸味で、スパイシー&フルーティなものもある。M子のオススメは、〈ZENITH ZEST柚子セゾン〉。 www.beerproject.be/jp/beers/2118-zenith-zest
*12 セッション系 伝統的なビアスタイルを維持しつつ、アルコール度数を低くして飲みやすくしたビール。
自分のお気に入りを見つけるためには、とにかくたくさんの種類を飲んでみること。そして、先入観を取り払うこと! コレ、大事です。飲み比べができる「フライトセット」(*14)で、五感をフル活用してみるのもいいでしょう。ABV(アルコール度数)やIBU(苦味の指標)(*15)も目安にはなりますが、店の人と話してコミュニケーションを深めれば、さらに興味が広がります。
日本好きな外国人男性3人による「京都醸造」(*16)は、私が大好きなブリュワリーのひとつ。味もさることながら、工場のようなブリューパブに入っていく感じが何とも楽しい。気に入ったら、彼らが参加するビアフェスに行ったり、卸している店に訪ねてみるのもいい。知れば知るほど、世界が広がっていく。クラフトビールって、ワクワクが止まらないんです。
同時に、世の中には自分の知らない味や香りがまだまだあるのだ、と、私にとっては、〝食〟全体への意識を高めるきっかけにもなりました。#(談)
*13 BREWDOG DEAD PONY CLUB スコットランドのブリュワリーが手がける、アメリカンペールエール。 www.brewdog.com
*14 フライトセット 小さなグラスで、数種類のビールを試すことができるセットのこと。瀬尾さんのオススメは、SPRING VALLEY BREWERYのペアリングセット。 www.springvalleybrewery.jp
*15 IBU 国際苦味単位。低いものは8〜20、苦味を効かせたものは100を超えるものも。
*16 京都醸造 青森で出会った、ウエールズ人、カナダ人、アメリカ人が、京都で始めた醸造所。 kyotobrewing.com
せのお・ゆきこ≫“明日をおいしく生きる”がコンセプトのフードディレクションチーム「Table for tomorrow」主宰。tablefortomorrow.jp
参考文献: 『ビール語辞典』(リース恵実著、瀬尾裕樹子監修/誠文堂新光社)