「春菊さえ食べておけばまちがいない」
誰の名言かというと、近所の八百屋のお兄さん。今日は里いもでも買おうかな、と思いながら店頭を物色していたら、やぶから棒に元気な声が響いたので、とっさに振り向くと、ちょうど春菊の束を段ボール箱から取り出し、店頭の棚に積んでいるところ。つい小さな笑いが出ました。ちょうど今朝、市場でどっさり仕入れたので、どんどん売らなきゃならない。だから威勢のいい売り文句を飛ばしたんだな。
でも、これは真実。さすがはベテランの店員さんだと感じ入った。冬は根野菜の収穫時期だし、イキのいい緑黄色野菜が少なくなる。そんななか、寒くなるほどおいしさが高まる春菊の存在感は増すばかり。ほのかな苦みと甘みのなかに、ビタミンやミネラルがぎゅーっと詰まっています。真冬の健康の源といってもいいくらい。
「関東では春菊と呼ぶみたいやな。あたしらは菊菜と言うてる」
大阪の友人が言っていた。両方とも同じ仲間だけれど、すこし違う。春菊は、茎から枝分かれした葉がつんつん伸びている。菊菜は、根の部分から葉が出て株のよう。春菊に較べて柔らかでふっくら、葉先も丸みを帯びている。どっちがおいしいかという話ではなく、馴染みのあるほうが好きなのは当然のこと。私は子どもの頃、冬場の鍋ものには菊菜だったからときどき恋しいなと思うけれど、ほろ苦さが強めの春菊をちぎって生のままサラダに仕立てるのが大好きだ。
日本版ルッコラのサラダ、みたいな感覚で、マッシュルームやパルミジャーノと合わせる。ルッコラの代用というわけではなく、春菊もハーブみたいなものだから、とサラダに使ったとき、なにかに似ている……と名前が浮かんだのがルッコラだった。白ワインやバゲット、ハムにもよく合うので、私の冬の食卓の定番になっています。
【材料】
春菊一束
マッシュルーム6個
チーズ(パルミジャーノ)適宜
オリーブオイル大さじ2
レモン汁大さじ1
塩ひとつまみ
【つくり方】
①春菊を洗い、よく水気を切って葉をちぎり、茎は斜め薄切りにする。
②マッシュルームを厚めの縦切りにする。
③オリーブオイル、レモン汁、塩をよく混ぜる。
④春菊とマッシュルームをざっくり混ぜて皿に盛り、ドレッシングとパルミジャーノをかける。
おまけに、春菊の葉っぱでつくる小さな料理をもうひとつ。春菊とちくわのナムルも、ぜひ試してほしい。同じようにちぎった春菊の葉と茎、斜め切りにしたちくわ、ごま油と塩と白ごまでさっと和えるだけ。ビールや日本酒のおつまみにも、箸が止まらなくて困る。
「春菊さえ食べておけば」と言わせるのが、春菊の懐の深さ。