ずっと待っていた。
ヨーイドン!号砲が鳴ったとたん、いっせいに走り出す徒競走の選手みたいに、畑のなすもズッキーニもオクラもどんどん育つ。色やかたちは違っても、ぎらつく太陽の日差しを浴びる実りの季節がやってきたら、夏野菜の勢いは止まらない。このエネルギーをずっと待っていた、待ち構えていた。
初めてズッキーニが枝にぶら下がっている光景を見たときは感激した。畑ではなく、田舎町の路上。低い塀の向こう側からせり出した鬱蒼と茂る植物に近づいて目を凝らすと、大きな葉の重なり合いのなか、たわわに実る何本もの太い緑の棒。緑の皮がビカビカ光って強烈な輝きを放ち、どこかツクリモノめいた異様な存在感にたじろぐ。さらに近づいて確認すると、ズッキーニだった。分厚い葉の表面にびっしり生えたケバが指にちくちく痛い。八百屋の軒先で見るズッキーニとはまったく違う野性の世界がそこにあった。
あのとき衝撃を受けたのは、真夏の太陽を弾き返すようにして育つズッキーニの生命力を思い知ったから。枝からもぎ取る前のなすもオクラも甘長唐辛子もピーマンにも、きっとおなじ生命力が宿る。
夏のあいだ、何度も何度も焼きびたしをつくる。
夏野菜のおいしさを愛でるための最強の方法、それが焼きびたし。
【材料】
夏野菜なんでも(なす、ズッキーニ、オクラ、みょうが、ピーマン、かぼちゃ、とうもろこしなど)
浸し汁A(だし1カップ半 醤油大さじ2 みりん大さじ1 酒大さじ2 塩小さじ1/3)
サラダ油(ごま油)適宜
【つくり方】
①なすやピーマンは縦長、ズッキーニは輪切り、かぼちゃは厚めの薄切り……それぞれの野菜を味が染みやすいように切る。
②フライパンに好みの油を入れ、火の通りにくい順に野菜を焼き、こんがり焼き目をつけて火を通す。
③小鍋にAを入れてひと煮立ちさせる。
④焼いた野菜を熱いまま順番に耐熱容器に移して並べ、上から❸の汁を回しかける。
⑤粗熱が取れたら、冷蔵庫でひと晩冷やす。
*さっぱりとした風味にしたいときは、浸し汁に酢を足す
焼きたての熱いのを並べていると、モザイク模様を描いている気分になり、美術か図工の時間みたい。出来上がりは真夏のアソートボックス。
野菜が冷めていくにつれて浸し汁の風味が染み込むので、かならずひと晩はそのまま置いておいてほしい。きんきんに冷えた野菜のうまみが口のなかで広がると、これはまさにハードな夏の暑さが運んでくるラッキー体験だなと目じりが下がる。こりりと硬いの。柔らかいの。しゃきっと歯切れがいいもの。アソートボックスだもの、バラエティ豊かです。
だしといううまみをたっぷり吸い込んで、夏野菜もひと息ついている。

