暦のうえでは夏は終わっていても、いぜん暑さは居残っている。じつは、勝負はこれから。過酷な暑さにダメージを受けた疲れがでるのは九月から十月初めだから気をつけて、という声は、医師や管理栄養士の方々からよく聞く。まだまだ気は抜けません。
食欲をそそりながら疲労回復におおきな効果を発揮するのは、酢。暑い季節は、酢の風味が欲しくなりませんか。口当たりがさっぱりしているだけでなく、酢、つまりクエン酸には血液の循環を高めて乳酸の分解を進める効果があるから、おのずと酢の効能を身体が求めるというわけ。つくづく身体は正直、理にかなっている。
赤道に近い熱帯地域で酸っぱい料理がポピュラーな理由に納得がいきますね。
たとえば南インドには酸味の効いた肉や魚のカレーがある。ゴア州の郷土料理として有名なのはポークビンダルー。インド料理にしては珍しく豚肉を使うのは、ゴアは十六世紀から二十世紀半ばまでポルトガル領の一部だったからとも言われる。インドの重要な貿易地でもあったから、さまざまな文化交流も行われていただろう。また、南インドには、トマトやタマリンドの酸味が効いた酸っぱ辛いスープ、ラッサムもある。もちろんそのまま飲んでもおいしいけれど、カレーをかけたバスマティライスにさらさらのラッサムを少し加えると、おいしさは倍にふくらむ。南インドの料理には、酸っぱさの扱い方の手本がたくさんある。
私がポークビンダルーを教えてもらったのはインド全土の料理に精通している北インド出身の女性で、彼女から教えてもらったレシピがもとになっている。今回紹介するのはポークビンダルーのお手軽バージョン。「ゴアでは豚肉のカタマリを大きく切って使うけれど、薄切り肉を使えば下ごしらえも少ないし、時間もかからない」と言っていた。なるほど、手近な材料ですぐつくれるし、プロセスはシンプル。なにより〝酸っぱいものが食べたい欲〟がたっぷり満たされ、それがカレーだというところがうれしくて二十年以上つくり続けている。
【材料】
豚ロース(薄切り)300g
玉ねぎ(薄切り)1個分
生姜(線切り)1/2カップ
おろしにんにく大さじ1
トマトピュレ1/2カップ
カレー粉大さじ2
粉唐辛子小さじ1/3
黒胡椒小さじ1
酢3/4カップ
水3/4〜1カップ
塩小さじ1/2〜
サラダ油適宜
【つくり方】
①細く切った豚ロース肉、生姜、酢をボウルに入れ、20分ほど漬け込む。
②鍋に玉ねぎとサラダ油を入れて炒め、しんなりしたらトマトピュレ、カレー粉、粉唐辛子、黒胡椒、おろしにんにくを加え、全体を混ぜ合わせる。
③❶を加えてよく混ぜ、水を加えて40分ほど煮る。
④塩で味を調え、黒胡椒(分量外)をたっぷりふる。
*酸味だけが上滑りしないよう、生姜やにんにく、黒胡椒をたっぷり入れて風味のバランスを取るのがポイントです。
え、こんな酸っぱいの?と驚くと思う。そうなんです、舌の奥がきゅうんとするくらい、きっちり酸っぱくて目が覚める。酸っぱくてスパイシー、生姜がどっさり入っているから汗が噴き出してくる。クセになるカレーです。

