温かいスープを、身体が欲しがっている。
とりわけ「あれが欲しい!」とリクエストが多いのが、クレソンのスープ。私の定番料理のひとつで、いま指折って数えてみたら二十五年以上作り続けている。鍋を火にかけ、ことこと煮るうちいつものクレソンの香りが湯気のなかに混じり始めると、早くも覇気が戻る。
えっ、クレソンを煮るの!?びっくりするかもしれないけれど、そうなんです。驚くほど大量のクレソンをじっくり煮るのが、このスープをおいしく作る最大のコツ。こんなに鍋いっぱい?と不安になっても全然平気。火が通ると、しゅるっと嵩が減る。
クレソンはサラダの材料だけでは終わらない、終わらせない。煮込むにつれ、じわじわとだしを出すところは本当にたくましい。
香港で教わった広東地方の家庭料理である。名前は「上湯西洋菜湯」。カンフーシューズを履いた白髪のかわいい老婦人が、「小さい頃、母が作っていたのと同じ味、同じ作り方よ。家族何代、何十年にわたって食べ続けている」と言い、たっぷりお碗によそってくれた。
熱々のひと口、ひと口が滋養のかたまり。「西洋菜は鉄分が多いから、女性はしょっちゅう食べるべき」とも教えてくれた。