自分の鼻が1ミリでも伸びないように、
家族に会ったり、エゴサーチをしています(笑)
『けもなれ』の松任谷さん、朝ドラ『ひよっこ』の米子、『女王の教室』のいじめっ子。役名を聞けば、その役もか!と思う作品がいくつもある。女優・伊藤沙莉さんは、弱冠24歳ながら芸歴はすでに15年。シリアスもコメディもこなし、主役にも名バイプレーヤーにもなる、今もっとも注目したい女優のひとりだ。
──これまで、学生、看護師、母親、AV女優……と、かなり幅広い役をこなしてきた伊藤さんだが、これは大変だったなぁ、というお仕事は?
「精神的に追い込まれたときかな。家族が好き過ぎてすぐ実家に帰っちゃうんですけど、地方で集中して撮る作品に入ると会えなくなるから、その時点で発狂もの。でも、そういうときに限って自分を追い詰めなきゃできないような役が多かったりして。〝役者は孤独〟って先輩方からよく耳にしますが、そんなときにふと思い出しては身に沁みますね。ひとりでいることが本当に苦手なので」
──そんなときは、どうやって気持ちを切り替えてますか?
「人と会うのがやっぱりいちばんですね。でも、基本的にはあんまり引きずらないんです。昔から切り替えだけは早くて、落ちるところまで落ちても、例えばテレビで好きなドラマが再放送してたら『え、待って。やってるじゃん!』ってなれるタイプなので(笑)」
──エゴサーチをよくされるとか。でもそれって、さらに落ち込まないですか?
「それはもちろん!でも検索してるとだんだん物足りなくなってきて、〝伊藤沙莉 嫌い〟〝伊藤沙莉 ブス〟で調べて、『もしかして求めてる……?』と思ったときがありました(笑)」
──Mっ気があるんですね(笑)。
「それより、自分が何なのかよくわからないのに、だんだんわかってきたところで〝フンっ〟となっていくのが嫌なので。もちろん気をつけてはいるけど、正直に言ってきてくれる人がいないと、やっぱりわからなくなってしまうことですから。だから家族によく会ってるっていうのもあります。1ミリでも(鼻が)伸びていたら速攻へし折られます」
──とにかく謙虚な姿勢が印象的な伊藤さん。その驕らない性格が信頼される演技を生み出しているように感じますが、それは子役時代に周りの大人が教えてくれたのでしょうか?
「いえ、最初は9歳だったので『自分が出てる!』ってミーハー小僧みたいな感じから始まって。だけど年々自分のお芝居に自信がなくなっていくんですよ……」
──経験を重ねたからこそ新たな壁が見えてきた、ということ?
「そうですね。いろんな役をやらせていただけることはすごくうれしいけど、その分『出し尽くしました!』じゃ終わっちゃうというか。同じことをやってたら飽きる人ももちろん出てくるし。それで徐々に自分を客観視するようになっていきました」
──とはいえ、気持ちを保ち続けるのはきっと難しいはず。初心を忘れないよう、大切にしている言葉はありますか?
「小学4年生ごろに見た『金八先生』で、Hey! Say! JUMPの八乙女光くん演じる丸山しゅうが覚醒剤で捕まるとき、金八先生が誰かの名言を言っていて。『あなたに優しくできたから、優しいわたしになれました。わたしを作るのはあなたです』という言葉がめちゃくちゃ好きです。それを聞くまでは〝自分らしく〟が大事だと思ってたんですけど、自分らしくあろうとしても、ひとりではどうにもならないことが多くて。自分が完成形でないことを初めて肯定できた言葉でした」
──小学生のときに自己肯定がなんたるかを悟ったというから、その早熟さに驚かされる。そんな伊藤さんが憧れる人はいますか?
「こうやって言うのもおこがましいですが、樹木希林さん。神様でした。共演が叶わなかったから本当に悔しくて。本格的な夢だったので、訃報を聞いたときは空っぽになってしまいました。会いたいけど会いたくない人でもあり、『まだ自分のお芝居は見せられないな』と考えてるうちに亡くなられてしまいました。当たり前なんですけど、人間だったんだなって。憧れ過ぎて、なんだか架空の人のようでした」
──樹木さんのどんなところに惹かれますか?
「それ以前もずっと好きだったんですけど、中学生のときに『悪人』を見て『うわ、背中でしゃべる人ってこういうことをいうんだな』って思って。すごくいい意味で『やっぱり化け物だな』と、あらためてむちゃくちゃ好きになりました。間近で見たい、もっと勉強したいと思いました。『好き過ぎて会いたくない』とか言ってる場合じゃなかったです」
──憧れを語るご自身も、昨年から今年にかけてさらにたくさんの作品に出演し、TAMA映画祭では最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭では助演女優賞を受賞……、と大躍進。着実にステップを上がっているように思いますが、今後はどんな役に挑戦したいですか?
「なぜこの役をわたしにやってほしいって思ってくださったんだろうっていうのを考えるのが楽しいんですね。そこには共通点があったり、こういう描写だからかな、と思うことがあったり。なので、もっと強く『なんで…!?』って思う役に出合いたいです。もうひとつは、特徴的なこの声のせいもあるのかわからないけど、わたしはキャラクターが濃い役に結構偏っちゃうんですね。でも自分の中でそれを打破するなにかが欲しいっていうのがあるので、もっと人間味のある役柄をやっていきたいです」
──それでは最後に、女優としての目標を教えてください。
「それこそわたしが死んじゃったときに、悔しがる若者がいるといいなって思います。『伊藤沙莉に会えなかった、くっそー!』って思ってくれる人がいたら本望ですね。大きい夢なんですけど(笑)」