取材当日、誕生日を迎えた麻生久美子さん。居合わせたキャストやスタッフにサプライズのブーケで祝われて、キュートな照れ笑いを浮かべていました。麻生さんは、9月17日から始まるオダギリジョーさん脚本・演出のドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』に出演。若手警察官の青葉一平(池松壮亮)と、彼の相棒である警察犬オリバーが次々発生する不可解な事件に挑む、可笑しくもサスペンスフルな刑事ものです。今作でも堂々のコメディエンヌぶりを発揮している麻生さんに、ポジティブな魅力を放ち続ける秘訣をお聞きしました。
ドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』麻生久美子インタビュー「難しいことは考えない。そんな自分が結構好き」
──麻生さんが今回演じた漆原冴子は、自称・仕事ができる女で妙に押しが強い警察官。『時効警察』シリーズでの三日月しずかとまた違う、コミカルな役でしたね。
漆原さん、ちゃんと新しいキャラに見えました? オダギリ(ジョー)さんとのドラマで、しかも警察もののコメディとなると、やっぱり『時効警察』のイメージからは逃げられません。だからまずは、三日月さんと離れたキャラになるように意識して役作りをしていきました。
──同じように魅力的ながら、まったく別もののキャラクターが誕生していました。
よかった! 前髪のビジュアルに救われた部分も大きいと思います。衣装合わせの1ヶ月くらい前に、ふと前髪を短く切って、(今作の演出を手掛けている)オダギリさんに「どうですか?」って写真を送ってみたんです。そうしたらなぜか大ウケされて、台本にも「前髪をどんどん短くしていく女」っていう設定が追加されたんですよ(笑)。
──前髪短いキャラは、麻生さんの役作りありきだったんですね! オダギリさんの、麻生さんに対する信頼が伝わってきます。
共演者としてのオダギリさんは、話していてとても楽しい方で、いつもいじられています(笑)。でも監督としてはとっても優しくて、いろいろと気遣ってくれるんです。俳優に「好きなようにしていいよ」と任せてくれますし、否定せずにうまく軌道修正してくれる。ただ私には、付き合いが長くて言いやすいからか、一番厳しかった気がしますね。
──「一番厳しかった」というのは?
まず、無茶ぶりが多いですよね。たとえば、台本に「漆原のアドリブで現場は温まる。もしくは愛想笑いくらいか。麻生さんの力量で決まる」って印刷されてるんですよ!(笑) 面白い話なんて持ってないし、アドリブもすごく苦手なのに。でもなんとか、3つの話を用意して撮影したんですが、完成した映像では、その場面が見事に全部カットされていたんです。私の努力、要らなかったじゃん!って(笑)。
ほかにも「かなり長い説明セリフもあるが、麻生さんは大丈夫だろうか? 心配だが、しっかりやって欲しい」とコメントが添えてあったり……そんな台本、初めてでした。おかげで、いいプレッシャーを感じながら臨めましたけど。
──今作もそうですが、コメディリリーフを演じられている麻生さんはとても生き生きされて見えます。
ありがとうございます。でも、コメディって本当に難しくて……やりすぎないようにしたいけれど、テンションが低すぎてもつまらないし、そのさじ加減にはいつも悩みます。『時効警察』も観る分にはゆるっと楽しい作品だけど、現場はいつも真剣勝負。ノリだけで演じていたら成立しない、緻密に計算された台本なんですよね。あの作品で学べたたくさんの経験が、今回のドラマにも活きています。
──今年で俳優生活26年目に突入されましたね。以前は「キャリアの長さに実力が見合っていない気がする」なんてこともおっしゃっていましたが、いまはいかがでしょうか?
えー、もうそんなに経ちました?(笑) いまも自信はありません。どうしてこんなに長く続けられているのかもわからないし……きっと、ずっと同じように思い続けるのかもしれない。
──これだけ実績があるのに、どうしてでしょう。
なんでしょう……私ね、あんまり何も考えてないんです。ほかの方のインタビューを横で聞いていると「そんなに深いことを考えてるんだ、すごいな」とか、しょっちゅう思ったりして(笑)。そういう部分が、自信を持てない原因のひとつかもしれませんね。でも、そんな自分も結構好きだから、このままでいいと思っています。
──「このままでいい」という麻生さんの言葉に、勇気づけられる人は少なくないと思います。
そうだったらうれしいですね。でも、20代後半のころは、そういう性格に悩んだこともありましたよ。「もうこれ以上の表現はできない」「こんな気持ちで役者をするのは失礼だ」って、仕事を続けるかどうかも迷っていて……そんなときに『時効警察』などの作品に出会い、自分で限界を決めつけすぎていたなと気づいたんです。少しずつありのままの自分でいいと思えるようになり、仕事がまた楽しくなっていきました。いま改めて振り返ってみると、ものごとを深く考えないで生きてきた人生が、私には心地よかった。それでいま幸せだから、これからも大丈夫かなって思います。表現することが好きなので、それさえ納得のいく形でできていたら、あとは別になんでもいいかも。
──プライベートでは二児のお母さん。子どもを育てながら働き続けるのには、ご苦労があるのでは?
子どもを育てながら働くのって大変ですよねー……。周りの人がたくさんサポートしてくれていて本当にありがたいけれど、それでもやらなきゃいけないことはたくさんある。仕事と育児の両立については、いまだに日々葛藤しています。けどやっぱり、仕事は楽しいんですよね。それに、“この年齢のこの時期”は、いましかない。俳優はこの声と身体でお芝居をするわけで、いまの私を求めてくださる方がいるんだったら、時期を逃さず出しておかないといけないかなって。
──シンプルで素敵ですね。どうしたらお忙しい中で、すこやかな心身で保っていられるのか、秘訣を伺いたいです。
秘訣があったら、私も知りたいくらいです(笑)。しいていうなら、コミュニケーションをとることかな。話していると楽しくなるから、誰とでも会話を大事にしたいと思っています。私、仕事を決めるときもすべて人ありきなんです。誰とお仕事したいか。人生って、どんな方と出会えるかで変わってくるものだから。
あとは、健康にいいことを調べて実践してみるのが好きで。最近だとファスティングを試してみたら私に合っていたらしく、肌の調子がよくなりました。昔は毎日のようにちょっとした不調があったから、いまは体調がいいだけで幸せだなって思いながら生きています。
──難しいことは考えないとおっしゃっていましたが、自分がよりよく生きていくための方法探しには、とても前向きなんですね。
はい、そこはどん欲に探していきたいと思っています。だって、人生一回きりだし、やりたいことをやって楽しく生きていきたいじゃないですか。
──俳優としては、これからどんなことをやりたいですか?
自分から「こういう役をやりたい」というより、台本をいただいてときめきたいタイプなんです。台本を読んだだけで、自分の演じているイメージがパッと頭に浮かんで、早く現場に入りたくてウズウズしちゃうような役が、ときどきあるんですよ。今回の漆原さんもそうで、最初に頭に浮かんだイメージをもとに、精いっぱい演じました。これからも、そんな素敵な役との出会いを楽しみにしています。
ドラマ10『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』
鑑識課警察犬係に所属する警察官で、この物語の主人公である青葉一平(池松壮亮)と、彼の相棒である警察犬オリバーは次々と発生する不可解な事件に挑んでいくのだが、様々な思惑が入り乱れ……。
脚本・演出・出演: オダギリジョー
出演: 池松壮亮、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、永山瑛太、國村隼、佐藤浩市 ほか
2021年9月17日、24日、10月1日<全3回>
総合 毎週金曜 よる10時~10時45分
©NHK
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麻生久美子
1978年生まれ、千葉県出身。1995年、映画デビュー。1998年、今村昌平監督の『カンゾー先生』に出演し、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、新人俳優賞をはじめ数々の賞を受賞。近年のおもな出演作にドラマ『時効警察はじめました』『いだてん~東京オリムピック噺~』『MIU404』、『あのときキスしておけば』、映画『散り椿』、舞台『キレイ-神様と待ち合わせした女-』など。
Photo: Yuka Uesawa Stylist: Yumi Narai Hair&Makeup: Megumi Isaka (dynamic) Text: Sakura Sugawara Edit: Milli Kawaguchi Cooperation: PROPS NOW