“好き”にまっすぐな人ほど、魅力的な気がします。それはたとえば、ハロー!プロジェクトのファンを公言している蒼井優さんと菊池亜希子さん。好きが高じて2019年、人気アイドルグループ・アンジュルムの魅力が詰まった『アンジュルムック』のダブル編集長を務めた二人が、ふたたびタッグを組みました。それが、ハロプロ卒業を11月15日に控えた、アンジュルムの笠原桃奈さんのフォトブック『Dear sister』(11月15日発売)。高橋ヨーコさんが写真を手掛け、17歳の美少女のノンシャランとした表情をたっぷり捉えた、ガーリーな雰囲気漂う1冊です。編集長を務めるにあたっては、普段は「撮られる側」の蒼井さんと菊池さんならではのモットーもあったそう。情熱的な“ハロオタ”であり、敏腕編集長でもある二人に、気になる制作の裏側を聞きました。
蒼井優&菊池亜希子インタビュー。アンジュルム笠原桃奈フォトブック『Dear sister』ダブル編集長就任! 愛情100%の制作奮闘記A to Z
──笠原桃奈さんがハロー!プロジェクトおよびアンジュルムを卒業する、11月15日に発売されるフォトブック『Dear sister』。卒業が発表されたのは、今年の6月だったんですよね。
蒼井優(以下、蒼井) 私たちもニュースで笠原さんの卒業を知ったんです。コロナ禍の間に、ハロプロを卒業したアンジュルムのメンバーが二人いらしたのですが(※室田瑞希さんと船木結さん)、静かにお見送りしてしまい……まぁ泣きながらですけど(笑)。今回は私たちがちょうど時間の余裕があるタイミングだったので、「もしまだ予定がないのであれば、写真集を作らせていただきたいね」という話になって。
菊池亜希子(以下、菊池) すぐに企画書を書いて、事務所にお送りして。
蒼井 (突然だったので)最初は「ちょっと考えさせてください」とのお返事で、「ですよね」って(笑)。
菊池 私たちはただの、いちオタクなので(笑)。こういうときに、何か特別扱いをしてもらっているわけではなく、そこが逆に信頼できるというか。企画を通していただくにあたり、「いつも事務所が作っているものと同等の予算感であれば」という条件付きだったことも、誠実だなと思いました。
蒼井 それは笠原さんだけじゃなく、ほかのハロプロのメンバーに対しても、ものすごく愛情があるからで。私たちも同感だから、改めて「いい事務所さんだなぁ」って。
──企画書作成からスタートし、ほんの5か月程度で作り上げたと! ハロプロを愛してやまないお二人から見た、笠原さんの魅力を教えてください。
菊池 ちょっと懐かしい感じがするところかな。今どきのお顔をしているんですけど、自分が青春時代に代々好きになってきたヒロイン像に近い気もするんです。たとえば、くらもちふさこ先生の漫画に出てきそう、『天然コケッコー』とか。片田舎に住んでいて、セーラー服着ていて……って、ちょっと変態チックですよね、すみません(笑)。
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蒼井 もちろん、ハロプロのメンバーは全員いい!んです。研修生の段階から、私たちにとっては宝なので。
菊池 本当に、みんなそれぞれによさがあるよね。
蒼井 その中で笠原さんは、彼女を撮った一枚の写真から物語が、時間が動き出しそうなタイプの女の子。本当にいろんな面を持っていて、今回の写真集のような愛くるしい魅力もありながら、きちんと眉毛を描いてアイラインを引いていても素敵だし。
菊池 見ている目線の先が気になる、何を見ているのかなって思わせる表情をするんですよね。アンニュイ、という表現が正しいかわからないんですけど。
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蒼井 それに、自分とちゃんと向き合っているなって。他者に対して謙虚で、敬意があって、なおかつ照れもあって。外見だけじゃなく、内面と眼差しがとても魅力的です。
菊池 笠原さんのブログを読んでいると、ちゃんと10代をがむしゃらに、自分と向き合って生きているのが伝わってくる。その姿に魅力を感じるし、自分自身も10代の頃、葛藤しながら過ごしてきた記憶がくすぐられるというか。
蒼井 ただ笠原さんが特別だと思うのが、葛藤を言語化できる才能。私も10代は同じようにいろんな葛藤があったけど、言葉にできなかった。今は18歳になったけど、17歳で海外行きを決めたのだってすごい(※笠原さんは卒業後、海外で歌とダンスを学ぶ予定)。だって彼女は、何も持っていない状態で海外に行くわけじゃないから。ハロー!プロジェクトという大好きな居場所があるのに、いや、あるからこそ海外に挑戦するという、その決断力を心から尊敬しています。
──『Dear sister』はまるでロードムービーのように、物語性を感じさせますね。何かテーマを決めていたんでしょうか?
菊池 はっきりした裏設定は、あえて作らなかったんです。というのも笠原さんはフォトジェニックだし、ヘアメイクを作り込んだりしなくても、自然といろんな映画的な表情を見せてくれる気がしたので。撮影中、ところどころで「なんかあの映画みたい」って思う瞬間がありました。たとえば港での撮影は、アキ・カウリスマキ監督っぽい雰囲気。笠原さんがかわいいのと同時に、ちょっとドキッとする影があったから。あとは、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』も思い出したな。今回映像を撮ってくれたVIDEOTAPEMUSICくんも同じようなことを言ってた。
蒼井 へぇ〜!
菊池 背景のパキッとした色の壁と、そのときの湿度と、(高橋)ヨーコさんが撮る写真の質感が相まって。私たち、とにかくかわいい色壁を探していたんです。優ちゃんがそういうの探すの、すっごい得意で(笑)。
蒼井 本当に得意なんです(笑)。カメラマンさんが撮る写真にぴったり合う色の壁を探すのは、なかなか大変。風景と撮る人との相性って、ものすごく大事だから。
菊池 おしゃれ「風」のシチュエーションだと、写真も「風」なものになっちゃう。なるべくそういうところじゃない、いつの時代かわからないみたいな背景が理想でした。
──今もお名前が出ましたが、今回撮影を担当したのは高橋ヨーコさんです。高橋さんと少女といえば、蒼井さんの写真集『トラベル・サンド』や『ダンデライオン』が思い浮かびます。
蒼井 私の中で勝手に、笠原さんとヨーコさんに組んでもらいたいなっていうのがずっとぼんやりあって、笠原さんが卒業して海外に行ってしまうと知り、「今しかない!」って。ヨーコさんは個人の魅力を撮ることに素晴らしく長けていて、マインドまできちんと見てくれる方。私自身もヨーコさんに出会ったおかげで、だいぶ人生が楽になったというか、「人生ってこんなに愉快なんだ」と知ることができた。笠原さんにもそういう大人に、10代のうちに出会ってほしい気持ちがありました。それで、引き受けてもらえるかはわからないけど、とりあえずヨーコさんに思いの丈だけは伝えたいと思い、時間をもらって。
菊池 笠原さんがどんな子で、いかにかわいくて、ヨーコさんの写真にマッチするかを、散々暑苦しくプレゼンしたんです(笑)。私たちとしては、ヨーコさんが撮らないとこの企画が成立しないと思っていたくらいで。結果的にヨーコさんは現場で、笠原さんを撮りながら「いいね!」ってすごくうれしそうな表情をしていて。それを見て、私たちもようやくほっとして。
──スタイリングもとてもかわいいんですが、お二人が担当したんですよね。
蒼井 ヨーコさんの写真と、笠原さんに似合いそうな服を、とにかくお互いの家から引っ張り出してきて……
──私服も使ったんですか!
二人 (同時に)ほぼ私服(笑)。
菊池 10年後、20年後に見ても、魅力がそのまま持続していくようなイメージにしたいねっていうのが、共通認識としてあったんです。だから衣装も、私たちのほか、スタイリストの山口果穂さん、編集の武内亜紗さんとみーんなで、とにかく家にある「普遍的なかわいさ」のある服を持ち寄りました。「こういう丈のワンピースはもう着れないけど、取っておいたのはこの日のためだったんだね……!」とか言い合いながら(笑)、スタイリングを組みつつ、ロケハンもして。場所ごとの衣装をある程度決めて、もうあとは臨機応変に。時間も予算も限りがある中で最善を尽くすために、ギリギリまで粘ったよね。
蒼井 コーディネートを2パターン組んでおいて、その場でどっちにするか決めたりね。その日の光によってどっちが合うか違うから。写真集の中に登場する3倍くらい、スタイリングを組んだと思います。なんだかんだ、メンバーカラーは全部うまく入った(笑)。あと私、元々『GINZA』をよく読んでいるんですが、森上摂子さんがスタイリングを担当したページの、カラーゴムの使い方がかわいくて。実は参考にしました。
──それはうれしいです! ところで、2019年にダブル編集長を担当した『アンジュルムック』では、メンバーとの打ち合わせやアンケートを通して、ご本人たちの意見をなるべく取り入れようとしたそうですね。普段は表舞台に出る側のお二人ならではの心遣いでもあったと思うのですが、それは今回も同じでしょうか?
蒼井 『アンジュルムック』のときから、彼女たちがちょっとでもしょんぼりする瞬間を、作品によってもたらさないようにしたいっていうのがとにかく自分の中であって。今回も笠原さんには「何か少しでも気になったら言ってくださいね」と伝えました。たとえば衣装も、私たちが組んだスタイリングをすべて写真に撮り、事前にお見せして、どれが着たいかを選んでもらったり。あらゆる場面で、笠原さん個人の持つ個性を、私たちが決めてしまわないように気を遣いました。
菊池 もちろん嫌なことは絶対にやってほしくない。けどそれは「大胆な肌の露出は絶対にしません」みたいなことではなくて。私みたいなオタクからすると、若い女の子の素肌がどれだけ眩しいか、宝物であるかよくわかっていて。笠原さんも肌が綺麗だし、もう信じられないくらいの膝小僧をしているんですよ。
蒼井 写真集に膝のアップが載っているんですが、修正なしです。こんなに白い膝ってあるんだっていうくらい。
菊池 そういう部分はちゃんと写真に残したい。「そこで、うなじを撮ってください」、「ここ、ここの後れ毛を撮ってください」とかリクエストして、そのたびにヨーコさんから「何このおじさん!」って言われながら(笑)。常に、ファンとして「こういうものを見たい」という気持ちと、本人にストレスをかけたくない気持ちのせめぎ合いでしたね。やっぱり撮影の時点で無理をさせてしまうと、写真も不自然なものになると思うので。
蒼井 無理にずっと笑っていてもらわないように、とかね。もちろん笑顔は撮りたいけど、どんな作り笑顔も、自然に出た笑顔には勝てないから。なのでそういう、たまに込み上げる笑顔を大切に、拾っていけたらいいなと思っていました。
──最後に、アンジュルムに興味を持った読者に向け、まずはここから聴いてほしい!という曲を教えてください。
菊池 うーん……結局は自分の好きな曲になっちゃうけど、『糸島Distance』を聴いてほしいですね。ずっと好きなんです。
蒼井 笠原さんが2016年にアンジュルムに加入してからで選ぶなら……、『46億年LOVE』かな。あ、でも『タデ食う虫もLike it!』も好きだし、『赤いイヤホン』も好きですね(笑)。
菊池 止まらない(笑)。最新曲の『愛されルート A or B?』もいいよね。歌い出しと、「あああ」っていう最初のサビ前が笠原さんなんですけど、急速に大人になった姿が見られる曲。
蒼井 笠原さんにとって2作目の『魔女っ子メグちゃん』のMVを観てから、『愛されルート A or B?』を観ると、変化がよくわかるよね。『愛されルート A or B?』の大人っぽさたるや! 堪能していただきたいです。
笠原桃奈(アンジュルム)フォトブック
『Dear sister』
発売日: 2021年11月15日
編集長: 蒼井優&菊池亜希子
撮影: 高橋ヨーコ
価格: ¥2,800(税込)
発行: オデッセー出版
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蒼井優
1985年生まれ、福岡県出身。2001年、『リリイ・シュシュのすべて』で映画デビュー。以後、映画、ドラマ、舞台、CMで活躍。2017年、『彼女がその名を知らない鳥たち』での日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ、受賞多数。2018年度、文化庁「芸術選奨」新人賞も受賞。近年の出演作に、映画『ロマンスドール』、『スパイの妻』、『おらおらでひとりいぐも』、『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』など。
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菊池亜希子
1982年生まれ、岐阜県生まれ。モデル、女優。モデルとしてデビュー後、映画やドラマ、舞台、CMでも活躍。編集長を務めた『菊池亜希子ムック マッシュ』ではシリーズ10作累計56万部の大ヒットを記録。主な出演作に映画『ぐるりのこと。』、『森崎書店の日々』、『海のふた』など。また著書に『好きよ、喫茶店』(マガジンハウス)、『へそまがり』(宝島社)などがある。出演映画『かそけきサンカヨウ』が現在公開中。
Photo: Kaori Ouchi Text&Edit: Milli Kawaguchi