東京と京都で同時開催中の写真展『永山瑛太、写真』では、『GINZA』の連載をまとめた写真集からの著名人のポートレート作品を中心に、初の試みであるセルフポートレート、日常の風景を収めたスナップ作品までが展示されている。開催の前日、設営作業が終わったばかりのライカギャラリー東京で、永山瑛太さんに話を聞いた。
永山瑛太が語る『永山瑛太、写真』展。「今生きている等身大の僕を、写真を通して感じてもらえたら」
──初めて展示をご覧になっていかがでしょう。
会場に入った瞬間、ものすごく感動しました。「俺、すごいことをやったな」って。自分が仕事をしてきた中でも格別な達成感というか。今年の初めに写真集が出来上がった時、1700冊を目の前にして一冊ずつ全部にサインしたんですけど(笑)、あの感動とはまた全然違って……。自分がこれだけの素晴らしい方々を撮らせていただく機会に恵まれたことは本当に運が良かったなと思いますし、自由に表現させてもらえたことに感謝の気持ちでいっぱいです。その結果がここにあるんですよね。ずっと憧れだったライカギャラリーで展示ができて、長年の夢が叶ったということも感慨深いです。
──ライカギャラリーで写真展を開催することになった経緯は?
以前、僕がある映画の賞を取った時に賞金が出たんですが、その時にまず最初に行ったのが銀座のライカストア。「(賞金で買える額の)カメラを下さい」と相談して、“ライカD-LUX3”というコンパクトカメラを初めて手に入れた。そこからライカさんとのお付き合いが始まりました。その後、ライカM2、M6、M(262)、Q、M9、このMモノクロームも出てすぐに手に入れました。すごくハイスペックなんだけど、ある独特な癖みたいなもの、ライカにしか出せない色というか世界がある。テクニックではなく、なんの理由も理屈もなく、感覚的なところなのですが、ライカを使っていれば自分の好きな写真が撮れるという結論に行き着いたんです。『GINZA』の連載を始めて勢いがついた頃、少し調子に乗って、「ずっとライカで撮影しているので、僕に写真展をやらせていただけないですか?」と生意気なことをお願いしてしまって。そしたら、僕が連載してることをどなたもご存知なくて(笑)。じゃあ一度見せて下さいとなり、念願叶って展示ができることに。決まったのは一年ほど前だったと思います。
──どのような基準で今回の写真を選んだのでしょうか。
どういう風に人が観るのか、他人の視点というのにすごく興味があって。GINZAの連載の時もそうだったのですが、女性目線を含め、客観的に見ていただいた感想や意見を聞いて、自分が腑に落ちれば、「じゃあ、それでお願いします!」というやり方をしていました。今回もライカさんの意見を聞きながら、一緒に選んだという流れです。スナップ写真についても同様で、僕自身を表現するために加えた方がいいのではとアドバイスをいただいて。撮り下ろしもありますし、何年前に撮ったかわからないような古い写真も混在しています。
──初めてのセルフポートレートについては?
自分がどんな顔をしてるかってどこか気恥ずかしいし、自分がどう見られたいかという欲みたいなものが丸裸にされてしまうようなところがある。そんなリミッターやフィルターを超えたところに何があるのか。セルフポートレートを出すことによって、永山瑛太という自分のエゴイズムや業みたいなものに対して、観た人たちがどう感じるのかを試してみたかったんです。滑稽なのかもしれないし、人が見たらダサいなと思うかもしれない。実は、友達にも周りの仕事関係者にも、「気持ち悪いねー」って言われました。「やめたほうがいい」って(笑)。
でも、否定的な意見をいただくほど、あ、そこに引っかかったんだと気づいた。気にならない写真なんて、もう見たくないと思っていたので、あえて物議を醸したい気持ちもありました。僕はもともとある種のバランス感覚のようなものが欠けているから、周りの意見にチューニングを合わせなくてもいいと思ったんです。それに対してライカさんは「そこに挑戦して行くのはいいと思うよ」と背中を押してくださって。俳優としては監督の意図に対してイエスマンでいることがかっこいいと思う。でも個展では、今生きている等身大の僕が透けて見えていてもいいんじゃないかなと。そういう意味での、セルフポートレートです。
──写真集は紙に印刷されたものですが、今回、写真展用にプリントされた写真を観てどのように感じましたか。
これが”人に見せる写真”なんだなと。ずっと写真を撮ってきて、この展示が1つの答えだったのかもしれないなと感動しました。それと同時に、ちょっと自分の手からは離れたところに行ったのかなという風にも感じました。いい悪いではなく。展示することで全く意味合いが変わるんだなと。写真集とは質感もサイズも光の当たり方も違う。額装も特別な比率のライカ独自のフォーマットです。それによってブランドの持つエネルギーや魂が写真に吹き込まれた気がしました。
──大きく引き伸ばされた3枚の写真が気になりました。
正直、被写体の方がみなさん素晴らしいので、どの写真でも良かったんですけど。僕も写真展に招待していただいて、自分が写っている写真が小さかったことにがっかりしたこともありましたし、先日、石井麻木さんの写真展では、僕の写真をものすごく大きく引き伸ばして飾ってくださっていて、それはそれで嬉しいけれど、ちょっと恥ずかしいという経験もしました(笑)。なぜこれを大きくしたのか、どうしてセルフポートレートの額縁に絵を描いたのか、そこに理由みたいなものは無くて、結局自分が好きなものでいいんじゃないかという答えにたどり着いたような気がしています。
僕の母親がいつも写真を撮っていて、幼少期から写真を観るのが好きだった。その延長線上に、まさかここまでできるとは思ってもいなかったですけれど。芝居でも写真でも、型にはまるのがすごく嫌いで、既成概念を壊したいと常に思っています。これは挑戦なのか、実験なのか、発表なのか、わからないですけど、たくさんの方に観に来ていただいて、答えを見つけ出して欲しい。いろんな感想を聞きたいです。これからも一生写真を撮り続けたいし、演者として芝居をして行きたい。まだまだ道の途上なんだなと改めて感じています。
愛用のカメラ「ライカ Mモノクローム」を手に。