ヤスケンさんこと安田顕さんは、ありとあらゆる役をカメレオンのように演じ分ける唯一無二の個性派俳優。彼の顔を見ると、どの役が頭に浮かぶだろうか? 下町工場の技術開発部長? 詐欺集団のボス? 泥臭い所轄の刑事? 呼ばれればどこへでも行く「最強の脇役俳優」? それとも「変態仙人」?
はじめまして、『GINZA』です! 今日はとてもダンディな装いです。普段からファッションに興味はありますか?
「そこはねえ、自分自身でも直したいなと思ってるところなんですが、得意ではないんです(笑)。仕事柄、朝起きて、現場へ行って、服を脱いで、衣裳を着て、衣裳を脱いで、服を着て帰るっていう。そうなると、ああ、ジャージでいいやってなっちゃうんです。あ、いや、そう言うとジャージを作ってる方に失礼なんですけれど」
北海道室蘭市出身。大学で演劇研究会に入り、森崎博之、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真らと出会い、演劇ユニットTEAM NACSを結成。それが俳優・安田顕さんの始まりだ。
では、いつ頃から「演じること」に興味を持つようになったのでしょう。
「やっぱり子どもの頃でしょうね。小学生のときに町内で仮装盆踊り大会というのがありましてね。そのとき、目出し帽っていうんですか、顔からすっぽり被る、いわゆるデストロイヤー帽がありまして、それを被って盆踊りに出たんですね。『あ、ケンちゃんだ!』ってすぐバレちゃいましたけど(笑)。でも、仮装をするとワクワクするじゃないですか。自分じゃないものになる、非現実を生きる、そういう気持ちがこの仕事の原点になってるんでしょうね」
それは〝onちゃん〟(安田さんがスーツアクターをしていた北海道テレビのキャラクター)の原点でもありそうですね。
「無理矢理こじつけるとね(笑)。子どもの頃、児童向けの演劇なんかも母親に連れられてよく観に行ったんです。そういうときって、だいたい狼が出てくるんです。狼が客席を練り歩いて『おお〜食ってやろうか!』って子どもたちを怖がらせる。そのとき私は何を考えたのかわかりませんが、狼のマスクを取ろうとしたんですね。その中身は誰なんだろうっていう。ものすごい怒られましたけど(笑)」
ところで、安田さんにはサラリーマン経験がある。大学卒業後、一度は就職したことがあるそうなのだ。
「医療事務をやってました。でも8カ月で辞めたんで、やってましたと公言するのもはばかられるんですが。まあ、ダメな社会人でしたね。いまもダメですけれど(笑)」
どういうところがダメでしたか?
「職場でミーティングがあるんですが、終わったあとは懇親会という名の飲み会があるんです。私、飲み会には一切行きませんでしたから。それは怒られましたね。付き合いも仕事だぞと。そのときは理解できませんでしたね。社会に出るとはどういうことか、よくわかってなかったんです。いまもわかってはいないんですけど(笑)」
そんなサラリーマン時代の経験が活かされてる……わけではなさそうですが、安田さんが講師となり、「モテるサラリーマンになるにはどうするべきか」をレクチャーするナンセンスコメディの舞台『スマートモテリーマン講座』が約5年ぶりに戻ってくる。福田雄一氏の脚本・演出で過去3回公演された人気のシリーズだ。
「女性、男性、性別かかわらず、みなさんモテたいと思うんです。じゃあ、モテてる人ってどういう人かというと、それは天賦の才でも親からもらったものでもなく、本人の努力だと思うんです。モテたいと思ってるのにモテない人は、努力もせずモテる人をやっかんでる人。モテない僕は完全にそっちです。やっかんでる(笑)。あるとき、モテる人がおっしゃってたんです。『いいか、服っていうのはな、自分が着たい服を着るんじゃない。相手が触ったときに、触り心地のいい服を着るものだ』って。これはモテますよね、ホントに(笑)」
ジャケット ¥78,000、シャツ¥24,000(共にポール・スミス コレクション | ポール・スミス リミテッド)