「ダメな瞬間って、自分でもちゃんとわかるんですよ。なにやってんだオレって。でも、ダメだと思いながらも生きていかなきゃいけない。それで一生懸命自分をよく見せようとするんだけど、その姿がまたよけいダメに見えてしまうという悪循環でね(笑)」
男前なんだけど、なんだかどこかがちょっとヘン。阿部寛さんは〝完璧ではない男〟を演じるのが上手い人だ。是枝裕和監督の新作映画『海よりもまだ深く』で演じる主人公・良多もまたしかり。──15年前に文学賞を獲ったきり泣かず飛ばずの売れない小説家。ギャンブル好きで離婚した妻子に養育費が払えず、月々の家賃の支払いも滞りがち。でも、小説家としてのプライドだけはある。大人になりきれないダメな中年男。
「役者って、ダメな人間を演じることへの憧れがあると思うんです。すごく人間味のある役だし、やっててどんどん膨らんでくるから楽しいし。でもやっぱり、自分も過去にダメだった経験があるからこそ、こういう役をやれるんだなというのはありますよね。一歩間違えば、自分も良多のようになっていたかもしれないと思いますから」
今回の是枝監督の映画のテーマは「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」。阿部さん自身も「なりたかった大人にはなれていないですよ」と苦笑い。聞けば、10代、20代は挫折の連続だったとか。
「最初の挫折は思春期の頃です。僕は陸上をやってたんです。子どもの頃、夢はオリンピックに出て金メダルを獲ることでね。幼稚園の頃から誰よりも足が速くて、負けたことなんてなかったんです。それが中学に入って早々出はなをくじかれた。脚にスネ毛の生えたヤツに負けたんですよ(笑)。僕は成長が遅かったから、試合でスネ毛のヤツを見るたびに、これは絶対に勝てないなって」
スネ毛がトラウマになりましたか。
「もう、恐怖ですよ(笑)。バカみたいな話ですけど、子どもにとってはそのプライドだけで生きてきたんでそのショックたるや。ああもうダメだって。自信喪失したんです。それで高校生になって、今度は宇宙に興味をもったんです。当時、カール・セーガンの『コスモス』っていうテレビ番組や本が流行りましてね。天体望遠鏡が欲しかったんだけど、僕の小遣いでは買うことができなくて。なんとか本だけは手に入れて、それを読んでは夢を見て。大学で宇宙工学をやりたいと受験するんですが、落ちました。で、その後、大学生の頃にたまたまラッキーなカタチでこの世界に入ることになって。とはいっても、モデルとしての人気だけで入ったので、自分の実力のなさを思い知ることになってね」