『アンナチュラル』『MIU404』など社会派エンタテインメントで人気を誇る脚本家・野木亜紀子さんによる最新作『連続ドラマW フェンス』。切り込むのは、沖縄の問題です。私たちが知っているようで知らない、でも日本で暮らす一人として考えなくてはいけない。そんなシリアスなテーマを扱いつつも、女性同士の友情物語でもある本作。主演の二人に思いを聞きました。
『連続ドラマW フェンス』松岡茉優と宮本エリアナが、脚本家・野木亜紀子の描く“沖縄”に向き合った日々「役の一番の理解者でいたい」
──沖縄を舞台に、米軍基地・ジェンダー・人種の問題などを描くエンターテインメント・クライムサスペンス『連続ドラマW フェンス』。松岡さん演じるライター“キー”と、今回が演技デビューとなった宮本さん演じる沖縄生まれのブラックミックス“桜”が、ある性的暴行事件の真相を追います。野木亜紀子さんによる脚本を読んでいかがでしたか?
松岡 野木さんの作品はこれまで視聴者として、ときには楽しく、ときには身につまされながら拝見してきました。今回はキーと桜さんという二人の主人公が壁に立ち向かい、悩み、もがきながらも、少しずつ前を向いていく物語として描かれています。
いざ演じる立場として台本を読むと、セリフのひとつひとつが、俳優に任されている度合いが大きいと感じました。どういう言い方をするか、どういう心持ちでしゃべるかで、意味合いが変わってしまうというか。
宮本 すごく踏み込んだ内容だなと感じました。台本を読むこと自体はじめてでしたけど、ドラマや映画が大好きでいろいろ観てきた中で、沖縄やミックスルーツの人たちのことについて、ここまで具体的に描かれている作品は少なかったと思います。ストーリーがテンポよく進んでいくのも心地よくて、全5話分を一気に読ませていただきました。
松岡 野木さんの今までの作品を改めて観て、会話劇のテンポや、緊張感のあるシーンの中で砕けたセリフが出てくる部分などを、参考にさせていただいたりもしました。
台本を読んで、野木さんはどれだけの取材をされて、どれだけの覚悟を持って描かれたのだろうと感じました。だからこそ、自分自身も覚悟を持って挑まなくてはと思いました。今回描かれるいくつかのテーマには、それぞれ当事者の方がいて、そこには悲しみがある。役として、セリフとして、それを話す以上、様々な意見、思いを知ることが必要だと思ったんです。
──そこに責任を感じたということでしょうか?
松岡 そうですね。このテーマをドラマという形で放送することが決まるまでに、野木さんや、プロデューサーの高江洲(義貴)さんと北野(拓)さん、関係者の方たち一人一人が「やろう」と言わなかったら実現しなかったことで。主演として選んでいただいて、大きな責任を感じました。もちろんどの作品も責任感を持って演じているのですが、このドラマで描くことは、今この瞬間も考えている人、苦しんでいる人がいる題材だから。共に作品を作るチームのみなさんとも、それぞれ思うこと、考え方は違うかもしれないから、お互いの意見を交わして、話し合って、撮影していかないといけなかった。
宮本 台本からは野木さんの想いがすごく伝わってきました。ミックスの私からしても、たくさんの取材をされたんだなと感じました。フィクションでもドキュメンタリーでも、ミックスについて描かれる際に「そうじゃないんだけどな」ということが多かったりするんです。でもこの台本は読んで素直に納得できましたし、野木さんの想いを、私も頑張って伝えていきたいと思いました。
──撮影に向けてはどんな準備を?
松岡 プロデューサーのお二人に「この作品を作るにあたって参考にされたものはありますか?」とお尋ねしたら、報道番組の中での日米地位協定の特集や、バラエティ番組での沖縄県民の方への取材など、たくさんのアーカイブを送ってくださって、とても助かりました。特に現地の方が日々感じていることについての取材VTRは、役を組み立てる上でも学びとなりました。
宮本 私は本をたくさん読みました。桜は沖縄の子なので、とにかく沖縄の歴史についてしっかり知ろうと思いました。私自身と同じブラックミックスの役なので、すでに知っていることも活かしつつ、歴史などを一から全部勉強していきました。
──松岡さん演じるキーは、アクションシーンや潜入取材のシーンがあったりと、観ていて面白い役どころです。沖縄空手を披露するさまが真に迫っていてカッコよかったですが、どう準備しましたか?
松岡 撮影に入る前に練習するお時間をいただいて。沖縄空手には独特の動きや手の形があって、「ここを間違えると沖縄空手ではなくなる」というポイントを先生に教えていただきました。「こう動くと大きく見えるかもしれない」「映像として撮るならこの動きはどうでしょうか」など、初心者の私が、幼少期から沖縄空手を習っているキーとして動けるように、コーチしてくださって。沖縄空手の型を桜さんに教えるシーンは、宮本さんと一緒に、ほぼワンカットで長回しをして、アドリブを交えながらの撮影でした。二人で空手をしながら距離が縮まっていくような、ほのぼのとしたシーンになりました。
宮本 撮影は毎日が新鮮でした。それに松岡さんの空手がすごかったです! 最初に先生から教わったとき、私も一緒にいたんです。でもそこから、私が言うのもおこがましいですが、本番になったら段違いに上達されていて。
松岡 嬉しい! ありがとうございます!
宮本 もう全然ついていけなかった(笑)。
松岡 でも今回、桜さんは沖縄の方言を話すから、それを桜さんの口から自然と出てくる言葉にするために、宮本さんはたくさん練習をされたと思うんです。
宮本 そうですね。
松岡 キーにとっての沖縄空手も、似た部分があると思って。その人が頭で考える先に出てくる言葉や動きは、体になじませる必要があるのかなと。キーが、考えるより先に体が動いていたり、本当は言うべきではない一言を思わず発してしまったり、それぞれの役が考えていること、譲れないものがあるから、演じる自分は役の一番の理解者でありたいと、いつも願っています。
──キーも桜もそれぞれ孤独を抱えて生きてきました。そんな二人が友情を育んでいけたのはどうしてだと思いますか?
松岡 キーは一見、歯に衣着せぬ人に感じられるかもしれませんが、実は何年も自分の中に秘めている感情を誰にも話せなかったり、自分の本音と向き合うことが難しかった人だと思うんです。桜さんは、ひとつひとつの言葉を選んでいて、自分に嘘をついてない。そんな素直な桜さんに出会えて、やっと誰かに甘えられる状態になれたのかなという気がします。
宮本 桜からすると、キーは引っ張っていってくれる存在なのかなと思いました。沖縄の方特有の優しさというか、ずっと言いたいけど言えなかった本音を、キーだけが「本当のこと言いなよ!」とズバズバ切り込んでくれて。だから、本土から来たキーとはじめてしっかり話すようになって、この人にならと心を開けたのだと思います。
──松本佳奈監督はどんなふうに演出する方ですか?
松岡 よく覚えているのが撮影初日、辺野古の海を前に、松本さんがクランクインのコメントとして「穏やかに、大きな声を出さずに撮りましょう」とおっしゃって。撮影現場はどうしても、慌ただしくなって “毎日が運動会”のような状態になることもあって。ただ今回は様々な立場の人がいて、それぞれに見えている景色が違い、描き方の難しい作品に取り組まなければならない。そんな中で、穏やかに、みんなで話し合いながら撮影を終えられた。松本さんのクランクインのコメントの通りになったことが誇らしかったです。
宮本 松本さんは、基本的には「桜の感じるままでいい」と言ってくださり、ときには「今どういう気持ち?」「私はこうやりたいんだけどどう思う?」と聞いてくださって。だから、自由に演じることができました。優しい方だなと思いました。
──宮本さんは演技デビュー作で、同世代から一目置かれる松岡さんとバディを組むのはどんな経験でした?
宮本 もう素直に嬉しかったです! もちろん、大丈夫かな?という気持ちもありつつですけど。
松岡 私たち同い年なんです。
宮本 ね! なんか嬉しかったです。
松岡 宮本さんは誰に対しても気を遣わせない人なんです。桜さんは髪をストレートに伸ばしている設定だから、ヘアセットに時間がかかって、朝がすごく早かったですよね。
宮本 朝5時くらいには現場に入っていて、ヘアメイクさんが二人がかりでした。
松岡 毎日、私より先に入られていたんですけど、どんなに朝が早くても隣の部屋から、宮本さんとヘアメイクさんが笑いながら明るくおしゃべりする声が聞こえてきて。例えば前日、遅くまで撮影をしていた日なんかは「今日こそムードが違うかな?」って思いながら向かうんだけど、確実に…
宮本 笑ってる(笑)。きっとうるさかったですよね…?
松岡 ううん、ホントにそれはなくて。むしろ、宮本さんたちのおしゃべりを耳にして、朝を明るい気持ちで迎えられていました。
宮本 よかった!
松岡 メイク室だけじゃなくて、いつもその場を明るくしてくださった宮本さんのパワーに助けられました。本当にありがとう。
宮本 こちらこそ共演できて光栄でした。ありがとうございます!
『連続ドラマW フェンス』
雑誌ライターのキーこと小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性・大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するために沖縄へ向かう。桜の供述には不審な点があり、事件の背景を探る必要があったのだ。米軍基地の門前町・通称コザを訪ね、桜の経営するカフェバーMOAIへ行き、観光客を装って接近。桜の祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることや、父親が米軍人であることを聞く。
一方でキーは、都内のキャバクラで働いていた頃の客だった沖縄県警の警察官・伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。やがて、沖縄の複雑な事情が絡み合った“ある真相”に辿り着く。キーが見つけた事件の真相とは!?
脚本: 野木亜紀子(『アンナチュラル』『MIU404』『罪の声(塩田武士原作)』)
出演: 松岡茉優、宮本エリアナ、青木崇高、與那城奨(JO1)、比嘉奈菜子、佐久本宝、志ぃさー、吉田妙子、新垣結衣(特別出演)
監督: 松本佳奈(『きょうの猫村さん』『パンとスープとネコ日和』『マザーウォーター』)
音楽プロデューサー: 岩崎太整
主題歌: Awich「TSUBASA feat. Yomi Jah」
プロデューサー: 高江洲義貴、北野拓
製作: WOWOW、NHKエンタープライズ
WOWOWにて毎週日曜午後10:00より放送中(全5話)【WOWOWプライム】【WOWOW 4K】
各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
無料トライアル実施中
【WOWOWオンデマンド】
©WOWOW「連続ドラマW フェンス」
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松岡茉優
1995年生まれ、東京都出身。主な出演作に、映画『ちはやふる』3部作(16・18)、映画初主演を果たした『勝手にふるえてろ』(17)、第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『万引き家族』(共に18)、『蜜蜂と遠雷』、『ひとよ』、『劇場』(すべて19)、『騙し絵の牙』(21)、『ヘルドッグス』、(22)、『スクロール』(23)、ドラマ『初恋の悪魔』(22)、『舞妓さんちのまかないさん』(23)など多数。
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宮本エリアナ
1994年生まれ、長崎県出身。アフリカ系アメリカにルーツを持ち、2015 年にミックスとしてはじめてミス・ユニバース日本代表に選出。ミックスルーツへの差別や偏見をなくすための活動を続けている。ダブル主演を務めた本作で俳優デビューを果たした。