『美しいひと』や『愛のあしあと』で知られ、10代の時に父親を亡くし、自身のセクシャリティをオープンにしてきたクリストフ・オノレ監督の自伝的作品でもある新作映画『Winter boy』(12月8日公開)。主人公の17歳のリュカを演じたのが、本作の演技によって第70回サン・セバスティアン国際映画祭主演俳優賞を受賞するなど、様々なメディアで“新たなスター誕生”と絶賛された21歳の新鋭、ポール・キルシェ(Paul Kircher)だ。突然訪れた父親の死によって、リュカは混乱し、大きな悲しみと喪失感を抱えたまま、初めて訪れたパリで兄の同居人であり年上のアーティスト・リリオに惹かれていく。大切な存在の死を少しずつ乗り越え、思春期特有の繊細さを宿しながら、再生に向けて歩を進めるリュカ。来日したポール・キルシェに『Winter boy』のこと、両親と弟も俳優という環境から受けた影響、 好きな日本のカルチャーについて聞いた。
フランス出身のライジングスター、 ポール・キルシェにインタビュー
主演映画『Winter boy』と役者という職業の魅力

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Paul Kircher
ポール・キルシェ>>2001年12月30日生まれ、フランス出身。ジェローム・キルシェ(『肉体の森』)を父に、イレーヌ・ジャコブ(『ふたりのベロニカ』『トリコロール/赤の愛』)を母に持つ。リセの最終学年のときに、映画『T'as pécho ?』のキャスティング・ディレクターの目に留まり主役デビューを飾る。パリ・シテ大学で経済学と地理学を専攻する一方、マニュファクチュール・デ・アベス劇団の夏期コースで演技を学ぶ。’21年、本作のオーディションでリュカ役を射止める。’22年サン・セバスティアン国際映画祭、最年少で最優秀俳優賞を獲得し、’23年セザール賞有望若手男優賞にノミネートされる。’23年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された最新作『Le Règne animal(原題)』でも主演を務め、ロマン・デュリスとの共演を果たした。
──オーディションで『Winter boy』のリュカ役を射止めた時はどう思いましたか?
元々好きだったクリストフ・オノレ監督の作品の世界に自分が入り込めることになり、とてもワクワクしました。脚本も面白く、作品のテーマとして“記憶”や“思い出”が描かれていることや、高校生のリュカの言動から感じる思春期特有の繊細さにも興味が湧きました。
──愛する父親を亡くして不安定になるリュカという役どころについて、どんなふうに感じましたか?
リュカは大変な出来事が起きたことで不安定になってしまいます。それと同時に、17歳の若者というのは、なぜか「自分はすべてをわかっている」という強い自信を持っています。ボーイフレンドとの恋愛関係を自信満々に周囲に話したり、ことあるごとに自分のことを大きく見せようとするんだけれど、現実の困難にぶつかるとやっぱりリュカも普通の17歳に過ぎない。まるで黒と白の間を行ったり来たりするかのように、不安定な自分と自信に満ち溢れた自分が交互にやってくるのです。父親を亡くしたことが自分にとってどういうことなのか、17歳のリュカが理解できないのは当然のことなのに、彼はどうにか解釈しようとあがくことで本当の自分がわからなくなり、殻に閉じこもってしまう。特に僕が印象的だったのは、父の葬儀のために実家に戻った時のリュカと、その後兄の誘いでパリに行き、アバンチュールを経験した時のリュカの雰囲気が大きく違うところでした。パリでの彼はとても自由で怖いもの知らず。そういった17歳ならではの“揺らぎ”を意識して演じました。原題は高校生を意味する『Le Lycéen』ですし。また 劇中で、「コンキリエ」という曲の「人間は砂の上の貝殻にすぎない」という歌詞が流れるシーンがありますが、その歌詞は人間の無力さを歌ってはいるけれど、それは決して悪いことではなく、美しいことであると僕は思っています。
Photo_Hikari Koki Hair&Makeup_Mariko Kubo Text & Edit_Kaori Komatsu