2019年に『ジョジョ・ラビット』でアカデミー賞脚色賞を受賞した、タイカ・ワイティティ監督。ニュージーランド出身で、先住民マオリの血を引く彼の最新作は、同じくポリネシア文化圏に位置する米領サモアのサッカー代表チームの実話をもとにした、スポーツ・コメディドラマ『ネクスト・ゴール・ウィンズ』(2月23日公開)だ。劇中には代表選手の一人として、サモアでは“ファファフィネ”とも呼ばれる、トランスジェンダー女性のキャラクターが登場。役を演じたカイマナさんと、そのモデルであるジャイヤ・サエルアさんのインタビューをキャッチ。
FIFA初のトランスジェンダー女性選手を演じて
サモア文化の第三の性“ファファフィネ”の二人が語る、映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』
──ジャイヤ・サエルアさんへ質問です。米領サモア代表チームでプレーするまでの過程や、FIFA初のトランスジェンダー女性となった思いについて教えてください。
ジャイヤ 2001年に対オーストラリア戦で大敗した後、米領サモアはチームを立て直すための最善の戦略として、若手を育成することを決めました。ですから当時、彼らは積極的に公立校や私立校に出向き、私もその過程で育成プログラムに参加することになりました。プレーし始めた頃は、男女混合でした。その年頃では、男女で競技空間を共有することが心地よく感じられました。男子だけの代表チームに入った時も同じように、安全で快適な環境だと感じていました。私が上手かったことも助けになったと思います。
私たち米領サモア代表チームの姿を追ったドキュメンタリー映画『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦』の撮影中、誰もこのプロジェクトの結果がどうなるのかも、二人の監督、マイク・ブレットとスティーブ・ジェイミソンが私たちを撮る使命がなんなのかもわかりませんでした。2014年にニューヨークのトライベッカ映画祭でプレミア上映されて初めて、この作品がとても美しい物語であること、そして当初の予想よりもずっと大きな存在になりうることを理解しました。私はFIFAでプレーするトランスジェンダー女性として、声を上げる方法を即座に学ばなければなりませんでした。
──このドキュメンタリーをもとに、フィクション映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』が生まれました。タイカ・ワイティティ監督と初めて会ったのはいつですか?
ジャイヤ 2016年ごろ、たまたまハワイにいた時に、(ブレットとジェイミソンから)タイカとの食事に誘われ、フィクション映画化の話を聞きました。私は映画に詳しくないですし、彼がどれほど著名な監督かも知りませんでしたので、「ええ、どうぞ」という感じ。2019年に撮影現場に出向き、どれほど多くの人が関わっているのかを目にして初めて、ハリウッド映画ならではの規模の大きさを実感しました。不意に、自分のストーリーがドキュメンタリー以上に広がっていくんだと知ったんです。
──本作でジャイヤ役を演じ、映画デビューを果たしたカイマナさんへ質問です。どんな経緯で作品に参加しましたか?
カイマナ 高校時代の友だちが、私がこの役にピッタリだと伝えてくれて。実際にキャスティング要項を見て、たしかに自分は要件を満たしていると思いました。唯一適していなかったのは、演技経験がないこと。オーディションに応募した日は金曜日の夜で、次の月曜日にはケイティ(・ドイル。キャスティング・ディレクター)と電話で話し、次の金曜日にはタイカと一緒にケイティのオフィスにいました。数ヵ月後、再度オーディションに呼ばれ、その日は大雨で遅刻してしまいました。私がずぶ濡れで現れると、タイカはスカイプ越しに「読み合わせはしなくていい。君に決まったから、もう行ってボールを蹴ってこい」と言いました。私がその時考えていたのは、「だったら電話をくれたらよかったのに!」ということだけ(笑)。
Edit_Milli Kawaguchi