「好き」の気持ちに正直に、肩肘張らず芸術を楽しむ。そのきっかけとなった印象派絵画との邂逅とは?芸術との関わり方、そして最近してみたいことを俳優、歌手として活躍する石田さんに聞いてみた。
石田ゆり子とアートの話
G’s interview

パリにて、作品群と運命的な
出合いを果たす
クロード・モネの大作が集う展覧会が、国立西洋美術館で開催中だ。アンバサダーを務める石田ゆり子さんは、日常の一部としてアートに親しむ。
「大きな展覧会などがあると、イベント気分で友人たちと連れ立って出かけたりもします。でも普段は、小さなギャラリーにふらりと立ち寄ることが多いかもしれません。好きな場所がいくつかあり、散歩の途中に覗きに行ったりしています」
石田さんにとって絵とは、「純粋に好きだから見に行くもの」。評価や批判の対象ではない。
「よく思うのが、『好き』は天秤にかけられないということ。例えば、知らない子どもが描いた絵に心が動くことがあります。でも、それとモネの傑作とは比べるものではない。好きは好きで、そこに優劣はないのではないか、と。それに、こんなに有名なモネだって、最初はただ絵を愛する少年だったはず。そんな想像も巡らせています」
モネのことを「私にとって特別な存在」だと繰り返す。作品との出合いは、19歳のときにさかのぼるそうだ。
「とある美術番組の取材で、パリのオランジュリー美術館を初めて訪れました。館内を回っていると、ふと吸い込まれるように足を踏み入れた空間があって。そこに、モネの[睡蓮]の連作が飾られていたんです。自然光が入る広い部屋の壁を、絵が切れ目なく覆っている。まるで湖の底にいるような心地になったのを覚えています。魔法にかけられた、そんなひとときでした」
お気に入りを選ぶとしたら、光の移ろいを追求して水面を描いた[睡蓮]シリーズや、セーヌ河を描いた作品群だという。
「[ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出]は、朝日に照らされた景色が水面に映ったさまを描いていて、逆さにしても同じように鑑賞できると聞きました。そんな工夫も素敵ですよね。モネのすごいところは、いつ見ても、初めて見たときと同じ新鮮な感動を与えてくれるところ。どんなタイミングで作品に触れても、心が清らかになっていくんです」
画家は何十年も前に他界しているが、作品内に描かれた場所や植物は残っている。そうした着想源に触れることも、芸術との関わり方の一つだろう。石田さんも今年、モネが作ったジヴェルニーの庭に足を運んだ。
「現在は修復が重ねられているので、庭も家も当時のままではないと思います。ただ、それでも彼が実際に見ていたポプラ並木などが残っている。モネがいたのと同じ場所で、同じ木々を見ているという体験に、くらっとしましたね」
Photo_Naoto Usami Styling_Miho Okabe Hair&Make-up_Tamae Okano Text&Edit_Motoko Kuroki