The xx(ザ・エックス・エックス)のメンバーであり、音楽プロデューサー&DJとしても活躍するJamie xx(ジェイミー・エックス・エックス、以下ジェイミー)。批評家やリスナーから大絶賛を受けた前作『In Colour』から9年ぶりにリリースされた、2ndソロアルバム『In Waves』の内省的でありながら、温かみのある唯一無二のサウンドは、聴く人の心の支えになってくれるような響きを持っている。「ダンスミュージックは素晴らしく、人生もまた素晴らしい」——そんな人生哲学が綴られたこの作品はいかにして完成したのか。アルバムのリリースツアーで来日していたジェイミーに話を訊いた。
音楽プロデューサー&DJ、Jamie xxにインタビュー
自分を再発見し、音楽を作る喜びを取り戻した『In Waves』
──『In Waves』という作品の核には仏教における「諦念」に近しい考え方、人生の浮き沈みを受け入れつつ、本質を見つめる、というような哲学が宿っているように思いました。内省的なサウンドもその一因ですが、アルバムのラストに据えられた「Falling Together」などの楽曲のリリックはあたかもマントラのように響いてきます。
この仕事を20年近く続けていると、自分がなぜ今も音楽を作り続けているのかを自問自答するようになります。ミュージシャンという仕事に就いていると、普通ではない環境の中で、孤独を常に感じ続ける生活をおくらなければなりません。何千人ものオーディエンスの前に立っていたかと思えば、次の瞬間には友人や家族から遠く離れた世界の反対側のホテルの部屋で一人きりなる。20代の頃は、その状況にうまく対処する方法がわかりませんでした。好きなことを続けながら、心の安定を保つより良いやり方を常に探し続けていました。
──つまり、音楽をやめたくなる瞬間もあった、と。21歳でインディー・ポップ・バンド、The xxのメンバーとしてデビューし、以降、第一線を走り続けてきた輝かしいキャリアをお持ちのジェイミーさんなら感じて当然の苦悩だとも思います。
ええ、まさに。僕はひどく疲れていました。でも、音楽を嫌いにはなりたくなかった。その疲労と憂鬱を克服するための何か新しい方法が必要でした。このアルバムをつくることは、そんなセラピー的なプロセスの一環だったんです。
それまでは、とにかくツアーやショーをやりすぎていたんですよね。音楽を仕事抜きで聴くみたいな当たり前のことができていなかった。アルバムも「作らなきゃ」って焦っていたし。ロックダウン中にサーフィンをしたり、スケボーをしたり、ジャズやソウルのレコードをただ楽しんで聴いたりしていたら、本来あるべき心の状態に戻っていって、いつの間にかアルバムも「作りたい」って思えるようになったんです。
──本作はCovid-19のパンデミックの最中に主に制作が行われたそうですね。ロックダウン期間は、特にミュージシャンの方は「あまり大きな声で言えないけれど、最良の時間だった」なんていう人も多いですよね。
そうそう(笑)。僕にとってもロックダウン期間は非常に意味のある時間でした。ミュージシャンとしての自分の人生を立ち止まって振り返る時間を持つことができたから。世界中の人たちが同じ状況を同じ時に経験していたので、自分がより大きなコミュニティの一部だと感じられました。そのつながりの感覚が、楽しみながら音楽を作る喜びを再発見する助けになりました。
──ご自身の中で常にどこかアウトサイダー的な感覚があるのでしょうか。
そうですね。そもそも僕が音楽を作り始めた理由は、友達の輪に馴染めなくて、学校が大嫌いだったからなんです。自分の部屋にこもって、一人でトラックやビートを作るのがただ楽しかった。その後、ロミーやオリヴァーとバンドを始めることになりましたが、特に初期の頃は別々に作業して、それを合わせて一つの曲にするというような方法を取っていました。ステージには無理やり引っ張り出されたって感じです(笑)。音楽を作ることは、いまだにやっていて一番自分らしくいられる孤独なプロセスですね。
Photo_Mikito Iizuka Text_Jin Otabe