CMのために書き下ろした『新聞』
ある日、渋谷のスクランブル交差点を歩いていると、大きなモニターに朝日新聞のCMが流れた。<携帯が ない そんな時代 知ってる最後の世代かもしれない>耳に残る、優しく心地の良い声の主こそNakamuraEmiさんだった。彼女は一体、何者なのだろう?
CMのために書き下ろした『新聞』
ある日、渋谷のスクランブル交差点を歩いていると、大きなモニターに朝日新聞のCMが流れた。<携帯が ない そんな時代 知ってる最後の世代かもしれない>耳に残る、優しく心地の良い声の主こそNakamuraEmiさんだった。彼女は一体、何者なのだろう?
去年、NakamuraEmiは『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『SUMMER SONIC』、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』など、約15本の大型フェスに出演。さらにはワンマンツアーで全国を周ったり、秦基博さん主催のイベントに参加したり、Salyuさんと東名阪ツアーを敢行するなど怒涛の1年を過ごした。
「大勢の方にライヴを観ていただく機会が多い年でした。ちょっと周りに負けそうになることもあったけど、なんとか自分らしさっていうのを考えながら動きましたね」
彼女を支持しているのは音楽ファンやアーティストだけではない。笑福亭鶴瓶さんも彼女の虜になった1人。自身のラジオ番組でゲストに招いたり、“今、気になっているアーティスト”を紹介するトークライヴイベントでもNakamuraさんを呼んだ。
「『ボブ・ディラン』って曲があるんですけど『アレを家で何にも考えずに聴くのが好きなんだ』って鶴瓶さんが言ってくださったのが、とても嬉しかったです。私の音楽を聴いてくださる方は『よく聴いてます』じゃなくて、『会社に向かう電車の中で聴いているんです』とか『現場へ行く前に聴いてる』と言ってくれてて。誰かの生活の側で私の音楽が鳴っていることが本当にありがたいです」
2016年に行われたリリースツアーの様子 Nakamuraさんのライヴを観に来る人は、仕事終わりの会社員が多いそう。
「仕事を終えてわざわざライヴハウスまで足を運ぶなんて、すごい労力じゃないですか。お客さんに『どうして来てくれたんですか?』って聞くと、『会社で辛いことがあったけど(私の)音楽を聴くと、自分の言いたかったことを代弁してくれているみたいで。ライヴに行くことが生きがいなんです』と言われたことがあって。そういう感想が一番嬉しいんですよね」
新曲『モチベーション』にこんな一節がある。<たかが仕事されど仕事 華やかにするかどんよりするか私次第だった>。どうしてNakamuraさんの言葉は働く人達の心に刺さるのか、それは歌手になる前に会社員を経験したのが歌詞に活きている、という。
「今年36歳になるんですけど……会社員をしていた20歳から30歳頃までが一番、音楽の土台になってるんです。仕事内容もそうだけど、そこで出会った上司、後輩、パートさん、それが今の自分自身を作り上げたと思います」
TVアニメ『笑ゥせぇるすまんNEW』のオープニングテーマ『Don’t』
今まで十数種類ものお仕事を経験されたそうですね。
「元々は幼稚園の先生をしてて。そのあとに音楽を始めたんです。当初はちゃんとした計画を立ててなくて“ボーカルレッスンに行けばどうにかなるんじゃないの”みたいな軽い気持ちで。それから工場、洋服屋、飲食と仕事を転々として。今となっては、そこで色んな人に出会えたことが財産になってます」
見切り発車で始めた音楽活動。一時は歌手になる夢を断念した時期があったという。
「人から好かれたくて、元々はキレイな言葉を並べただけのバラードを歌ってました。でも、30歳手前でHIPHOPと出会い、自分の言いたいことをハッキリ言ってる彼らと比べた時、私自身の生ぬるさを痛感したんです。音楽は趣味で続けるぐらいで良いや、と思いました。それよりも地に足をつけて、とにかく仕事を頑張ろう、と」
でも、誰かがNakamuraさんに目をつけたからメジャーデビューに至ったんですよね?
「私がライヴをしていた下北沢のオーナーが、たまたま今のマネージャーと飲み友達で。店内で、わざと私の曲をかけてくれてたらしいんですよ。そしたら『この子、誰?』となって、声をかけていただきました」
しかし、その頃は堅実に生きると決めていたNakamuraさん。すぐに契約とはならなかったそうだ。
「30代になってましたし、会社員として働いて、やっと安定したお給料をもらえていた時だったので。事務所と契約するなんて、とんでもないと思ってました。もう1回、音楽の貧乏生活なんて恐ろしかったし、お金がないのも嫌ですし。マネージャーには『シンガーソングライターみたいな売り出し方は嫌だ』とか、色々とワガママを言って。そうすれば、向こうから断るだろうな、と思ってたんです」
契約を拒んでいたNakamuraさんに、ある日、マネージャーは「一度でいいから観てほしいライヴがある」と勧めた。そのライヴが彼女の気持ちを180度変えることとなる。
「その方は竹原ピストルさんのマネージャーもされていて、ライヴを観に行ったんですよ。当時は竹原さんの存在を知らなかったんですけど、ライヴ中ずっと涙が止まらなくて。頭にタオルを巻いて、Tシャツ姿の竹原さんがギターをグワーって弾きながら、すごく人間くさい曲を歌ってたんです。そのステージを観て『この人のマネージャーさんが私とやりたい』って誘ってくれているなら、と思いその場で『ぜひ、やらせてください』って言いました」
自らのデビューを歌った『メジャーデビュー』
そんな彼女も、メジャーデビューをして2周年を迎えた。前作『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』の『メジャーデビュー』では<うーわNakamuraEmi 思ったより大した事ねーな 飲み込んで前に進め ぶれんじゃねーぞぶれんじゃねーぞ>と歌い、3月21日にリリースされる3rdアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』の『かかってこいよ』では<かかってこいよ 敵はそいつじゃない かかってこいよ 敵は自分の弱さ>と歌う。人は年齢を重ねるたびに丸くなっていくと思っていたが、彼女は違った。年々、歌詞が鋭くなっている。最後にNakamuraさんのパワーは一体どこからくるのか聞いてみた。
「自分を“情けない”と思った時が一番、曲をかけるんです。昔は人から嫌われたくなくて、周りに合わせてばかりでした。そしたら、面白味のない八方美人のつまらない私が出来上がった。そんな自分をとにかく変えたくて。歌うことで “お前、変われよ”って自分に言い聞かせてるというか。ここから死ぬまでは、ちゃんと芯を通せる人間になりたい。だからこそ自分に嘘をつかずに、どんどん尖っていけたらと思ってます」
1982年生まれ。2007年から音楽活動をスタート。2016年に日本コロムビアよりメジャーデビューを果たす。2018年3月21日、3rd Album『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』をリリース。5月からは『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5~Release Tour 2018~』を開催する。