オープンしたばかりの銀座店で開催されたカクテルパーティのために、デザイナーのトム・ブラウンが2年ぶりに来日。設立20年以上になるブランドの精神を、あらためて尋ねた。
ファッションデザイナー、トム・ブラウンにインタビュー
静かに貫くユニフォームの美学

来日は、青山店オープン10周年を祝した2023年以来。ブランドを象徴する色であるグレーの大理石が用いられた、オフィスを思わせる内装の銀座店を実際に訪れ、どのような感想を抱いたのだろうか。
「コレクションをさまざまな層の人々に見てもらいたいので、青山とは違った高級感のある銀座という街にお店を構えることができてうれしいです。青山店より少し広いですが、初の旗艦店であるNY店にも通じる感性を体現していると思います。私は“統一性”を重視していますから」

1階では、「Superfine: Tailoring Black Style」がテーマとなった25年のメットガラでセレブリティが着用したルックを期間限定で展示した。ウーピー・ゴールドバーグ、ゾーイ・サルダナといったアイコンたちのための手の込んだクチュールピースが並んだが、中でも、デミ・ムーアのドレス(下の写真)が印象深いという。
「クラシックなブラック・タイをイメージしましたが、面白い仕上がりになったと思います。デミからは、“自分らしい、特別なピースを作ってほしい”というリクエストだけがありました。彼女はファッションを愛していて、デザイナーを尊重してくれます。私のさまざまなアイデアを快く受け入れてくれました」

ただ、メットガラは今モード界で過熱しているセレブリティ・マーケティングの象徴とも言えるようなイベント。独自のスタイルを貫くトム ブラウンが積極的に参加しているのはなぜなのだろうか。
「お金を介したビジネスとしてではなく、私は本当に親交のある友人たちのために服を作っているんです。興味深い仕事ですし、一つのコレクションを手掛けるような気持ちで取り組んでいます。加えて、パートナーであるメトロポリタン美術館の服飾研究所の主席キュレーター、アンドリュー・ボルトンの仕事を讃える意味合いもあります。彼は、ファッションをアートの域に高めていると思っています」
この「メットガラ・コレクション」にも表れているように、クロップド丈のグレースーツを「ユニフォーム」としながらも、毎季奇想天外とも言えるアイデアを駆使するのがトム ブラウンの特徴。最新の26年春夏は「カール・ラガーフェルドが住んでいた豪邸を異星人が住処にする」という設定のショーを開催し、観客を驚かせた(下の写真)。異星人たちが手にしていた「We Come In Peace(私たちは平和を望んで来ました)」といったメッセージから現在の社会情勢とリンクさせる憶測も呼んだが、トムは「よくあるSF作品のセリフです。あまりコレクションを政治的なものにはしたくないので」と笑う。
「構築的なショルダーが特徴の新型ジャケットと膝丈のスカートのシルエットからスタートしたコレクションでした。余分な手足が付いているで、そこから異星人を連想したところはあります。18世紀の建物とフューチャリスティックなスタイルを愛したカールへのオマージュも少し頭にありましたが、とにかく新しい世界観を作り上げたかったんです」

ショーではそうしたクリエイティビティを遺憾なく発揮するトムだが、決してビジネスを二の次にしているわけではない。
「ストーリー性があってこそ、ウェアラブルなアイテムが魅力的に見えると思うんです。ビジネスがクリエイティビティの犠牲になってはならないですが、クリエイティビティを失ってしまっては面白くありません。18年から一員となっているゼニア グループはそうした私の姿勢を尊重してくれていますし、今うまくバランスを取れていると思います」
制服のような「統一性」に重きを置きながらも、完璧過ぎるのは好まない。ドリス・ヴァン・ノッテンやマルタン・マルジェラも追ったライナー・ホルツェマー監督のドキュメンタリー映画『THOM BROWNE - THE MAN WHO TAILORS DREAMS(トム・ブラウン: 夢を仕立てる男)』(24)では、「スリーピーススーツを着る時、ボタンダウンのシャツにはあえてアイロンをかけず、襟のボタンは外す」といった着こなしのルールについて明かしている。
「全てが完璧過ぎると面白くなくなってしまう。だから不完全な状態を見せたいんです」
そう言いつつも、本作でアナ・ウィンターが暴露しているように、夜行のフライトでも「終始スーツ姿で背筋を伸ばしたまま」。一方で、バレンタインデーに開催された23 - 24年秋冬のショーのフィナーレで最愛のアンドリューにチョコレートを渡す演出に少年のように胸を高鳴らせる姿が収められている。
百戦錬磨の名物記者、ファッションメディア『Business of Fashion』のティム・ブランクスでさえ「何度取材してもトムの実体をつかめない」と嘆く。そんなトムに今後について聞いても、返ってくるのはいつもと同じ答えだった。
「これまでと同様に続けていくだけです」
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トム・ブラウン
2001年、NYで5着のスーツからビジネスをスタート。04年からメンズ、11年からウィメンズコレクションを展開している。23年、初のオートクチュールコレクションを発表。アメリカファッション協議会(CFDA)の会長も務めている。
Photo_Kiyotaka Hamamura Text_Itoi Kuriyama
