俳優生活20年という節目の年である今年、野田作品の金字塔『贋作 桜の森の満開の下』への出演も大きな話題となった妻夫木聡さん。1989年に初演、その後2度の再演を重ね、今回4代目・耳男を演じる意気込みと、芝居への想い、そしてプライベートについてなど、37歳の「今」を、昔と変わらない笑顔と大人なユーモアを交えて語ってくれた。
芝居の魔物に魅了されて。妻夫木聡を知るための10のこと
ーーQ1. 『贋作 桜の森の満開の下』で主演・耳男を演じるにあたり、妻夫木さんらしさをどのように役柄に落とし込んでいこうと思っていますか?
僕は野田さん、堤さんの演じた耳男を観たことがないので、おふたりがどう演じてたかというのはわからないんですけど、会見の時に野田さんが、僕の中にある弱さ、みたいなものが、耳男を演じるにあたりすごくプラスになるんじゃないかっておっしゃっていて。僕が弱いっていうよりも、弱い役が似合うというか、そういうような言い方だったと思うんですけど。戯曲自体がすごく難しいということもあって、物語の中の人物のように捉えがちなんですけど、人間であるっていうことが見えればいいのかなって。そこが見えていれば、理屈じゃない、言葉にできない何かが表現できるような気がしています。だから人間臭さみたいなものを大事にしたいですね。
ーーQ2. 9月1日の公演に向けて今はどんな段階ですか?
台本をもとにワークショップをしています。まずはコミュニケーションというか、みんなでゲームをして内容を読みあって、一緒にちょっと歩いてみたりだとか。それを3~4時間やったあとに、台本から抜粋した箇所からそれぞれお題を決めて、今回の『桜の森』の中の大きな題材を使って表現するっていうことをやっています。野田さんって、すごく感覚的に僕たちに、「芝居って楽しいもんだろ」って教えてくださる人なので、このワークショップを通じて、どういう風に芝居をしようかな、ということじゃなくて、「まずはほら、みんなで演劇を楽しもうぜ」っていうノリを作ってくれるというか。その中で、みんなでひとつのお題について考えて、「あーでもない、こーででもない」って言ってたものが劇中で使われてたりすることも多いから、知らず知らずのうちに役柄とか番手とか関係なしに、みんながこの作品に関わっているっていう意識を持てるようにしてくれるんですよね。
ーーQ3. NODA・MAP作品には6度目の出演となりますが、その魅力とは?
人間が考えること、想像しうるもの、言葉、概念だとか、いろんなものを壊してくれるところなんじゃないですかね。理屈が通じないところがNODA・MAPのよさだと思うから、可能性って限りなくていいんじゃないかな、っていうのを演じてる側も、観てる側もいつも感じさせてもらえるんですよ。1+1=2じゃなくてもいいじゃないすか。人それぞれ答えがあっていいのかなっていう。そういう自由さが、僕は好きです。
ーーQ4. 妻夫木さん含め豪華キャストが発表と共に話題になっていますが、共演者の方々を知った時の感想は?
いやーーー、すごいですよね。映画でもこんなに集まらないですからね(笑)。演劇でもドラマでも、普通は考えられないくらいの豪華キャストなんで、ちょっと大丈夫かな、と思いましたね。プロデューサーとかやりたくないですよね(笑)。本当にみんな揃って稽古できんのか、今からちょっと心配です(笑)。僕自身は、いろんな人から『桜の森』の話は聞いていて、まさかそれを自分がやるとは全然想像してなかったんで、話をいただいた時はびっくりしました。でも、人間って怖いものほど入っていってしまうってところがあるじゃないですか。『桜の森』もそういうような話なんですけど、NODA・MAPをやる度にプレッシャーに押し潰されそうだな、って思いきや、やっぱりやっちゃうんですよ。気持ちよかったり楽しかったり、怖いことがどこか快感になってたりもする。言葉に表せないけど、魔物みたいなものが潜んでて、その魅力に取り憑かれちゃってるところがあるんでしょうね。
ーーQ5. 日本三都市、さらにパリと3か月続く長い公演となりますが、タフな公演や撮影の時に、コンディションを維持する自分なりの方法は?
吸入器をやったり、いっぱいありますよ。でも、夏のNODA・MAPは助けられるんですよね。冬は乾燥だったり寒くて体が固まるんで、ほぐしたりするのが本当に大変なんですけど、今回は夏場っていうだけであんまり心配はしてないです。気をつけるっていったら、今回公演と公演の間に休みがあるから、つい調子にのって飲み過ぎちゃうような気がして怖いんですよ。舞台の人たち酒飲みばっかりなんでね。特に野田さんと一緒の時は気をつけなきゃなんだよなぁ。ついつい余計なもう一杯を飲んじゃうんですよ。こないだのワークショップで、すでにそれをやっちゃって。余計なんだよな~最後の一杯がいつも(笑)。
ーーQ6. 今年で俳優生活20年目ということですが、自分の中で節目となった作品はありますか?
『悪人』ですかね。『ウォーターボーイズ』とかもそうだと思いますけど、わかりやすく30ぐらいの歳だったし、やっぱり『悪人』なんでしょうね。結果的に賞もいっぱいいただいて、評価もしてくださってというのはあるんですけど、「この役を演りたい」って、自分から動いて、その役を演れたっていうことや、「この役はこういうしゃべり方で、こういう髪型をしていて、背骨もちょっと曲がってて」って、積み上げていく芝居じゃなく、「この役はこんな性格で……、あ、考えてるからダメだ」って、役になりきれるように、自分をどんどん削る芝居に追い込んでいったこととか、芝居自体の捉え方を180度変えた作品だったんです。だから、バイトに行ってみるとか、実際に殺人現場に行ってみるとか、とりあえず動いてみて、いろんなものに触れて、見て、感じて、どんどん自分をその人間になっていくようにする。全部否定するから、すごく苦しいし、きついんですけど。そういう意味で『悪人』は転機だったのかな、と思いますね。
ーーQ7. 今挑戦したいと思っていることは?
やっぱり言語です。もうこれ一生言うんだろうなって思いますけど(笑)。通訳を付けずにいろいろ話してみたいじゃないすか。本音もたぶん、通訳を介すとオブラートに包まれたり、フィルターがかかる。それにしゃべれれば、いろんな映画に出れる可能性もあるだろうし。やっときゃよかったって何回も思いましたけど、今からでも遅くないんで挑戦しなきゃ、と思ってます。今は出演が決まっている中国映画があるから中国語を勉強してるんですけど、いずれ英語がしゃべれるようになりたいですね。
ーーQ8. ご結婚されて変わったことは?
特にないです(笑)。子供ができたら、もしかしたら変わることもあるかもしれないですね。子供がいる共演者とか見てると、持ってたオーラとか匂いとか色とか、そういうのが子供ができてから変わったところがあるので。とは言え、結婚して現実的にはなりました。好きなことをやって生きていくってずっと思ってましたけど、保険とか見直してみたり(笑)、現実的なところは増えましたね。
ーーQ9. 役柄ではカジュアルからスーツまで着こなされますが、普段はどんなスタイルが好き?
いたってシンプルが好きで、黒、白、紺ばっかりです。がちゃがちゃしたものは着なくなりました。昔は割といろんなものを着てたんですけど、もう40近いんで、なるべく落ち着いた格好をしようかなと思っています。一番大事にしてるのは清潔感と品。でも、黒一色でも、靴は白を選んでアクセントにしたりとか、一見普通なんだけど、少し個性のある着こなしが好きなのかもしれないです。
ーーQ10. 何をしている時が一番楽しいですか?
お酒を飲んでる時が一番楽しいですね。特にビール。これ別に、自分がCMしているからではなく(笑)。本当にビール党なんですよ。だから、この季節だったらバーベキューをしたり。あと、美術館とかで、ボーっと過ごすのが好きになりました。昔は、そういうことをやってる人は大人だなぁと思ってたんですけど、今は、いろんなことに触れて知ることによって、世の中って楽しいことがいっぱいあるんだなって感じます。あと、人の人生に触れてみるのも楽しい。GINZA編集部に雑誌の企画で遊びに行かせてもらった時も、「こういう風に雑誌を作ってんだ~」って思ったし、あとGINZA編集部だけなんかお洒落でGINZA的なんですよね。それで、POPEYEはやっぱPOPEYEっぽくて、BRUTUSはBRUTUSっぽい。雑誌の色でそんなに編集部の雰囲気が変わるって面白いですよね。役者もそうですけど、きっと編集の方々も、生きてること自体が仕事に繋がってるところがあるじゃないですか。世の中で起こってることを見て、先取りして、発信する。そういう仕事も面白そうだなって思いました。
衣装 全てスタイリスト私物
NODA・MAP第22回公演
『贋作 桜の森の満開の下』
作・演出: 野田秀樹
出演: 妻夫木聡、深津絵里、天海祐希、古田新太
秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆、村岡希美
門脇麦、池田成志、銀粉蝶、野田秀樹
東京公演: 2018年9月1日(土)〜9月12日(水) 東京芸術劇場プレイハウス
大阪公演: 2018年10月13日(土)〜10月21日(日) 新歌舞伎座
北九州公演: 2018年10月25日(木)〜10月29日(月) 北九州芸術劇場 大ホール
東京公演: 2018年11月3日(土祝)〜11月25日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
2018年7月28日(土) 日本公演チケット全国一斉発売
HP: www.nodamap.com/sakuranomori/
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妻夫木聡
1980年、福岡県生まれ。2001年、映画初主演作『ウォーターボーイズ』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。その後、国内外で数々の映画賞を受賞し、近年には海外にも活躍の場を広げる。野田作品では『キル』『南へ』『エッグ』(初演/再演)『足跡姫~時代錯誤冬幽霊~』に出演し、今回で6度目の出演となる。