「かっこいいってどんな人なのか」を知りたくて、フローリストの河村敏栄さんが今日はあの人に会いに行く。その日の花を携えて。
その日の花。vol.4 スナックチェリーのビンコママへ
─── 宇野千代さんのように、 恋愛を即行動に起こせる人。98歳で亡くなる人生の最期に 「あー、面白かった」 と言ったのを知って、感動の極み。
無口な彼女の内に秘めた炎に気づいた日から、私はチェリーに通いつめている。「卓也君しか思いつかないんだけどな」。卓也君とは彼女がお気に入りの演歌歌手だ。私はもう一度〝かっこいい人〟の意味を説明しながら、純粋すぎるこの人が、何十年も東京で水商売を続けてきた奇跡を考えていた。一番大事なことをすぐに見失い、人生を複雑にして悩む私たちのために、彼女は、優しいふくちゃん(看板ボウイ)をお供に下界に降りてきた神様なのかもしれない。毎日店を開けることより、ただその一日を充実させることが大事だと教えてくれた神様は、しみじみと最後に言った。「死ぬまで女として生きたい」。嘘や小細工のない真っ直ぐな言葉は、女であることに少し疲れていた私の心にだって突き刺さる。もしも、彼女のように自分の中にすべての答えがある人を女と呼ぶなら、私も喜んで女になりたい。
今月の花
いつもお団子頭がキュートなママには、虹色に染められたカーネーションを、ワイヤリングしてカチューシャに。平成が終わり令和に変わっても、スナックは永遠、チェリーは無休、キープボトルは無期限だ!が裏テーマです。ストレリチアは極楽鳥花。かすみ草、プチソレイユと名付けられたユリ。彼女の宇宙の中だと個性ある花も生き生きしている。
花と文 河村敏栄 写真 松原博子
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びんこ
スナックチェリーのママ。西武百貨店池袋本店の既製服とイージーオーダーのフロアに勤めているときに、憧れだった酒場を始めようと決意。百貨店を辞め、喫茶店を1カ月ほど手伝ってから東北沢に「チェリー」をオープン。迷える若者やファッション業界人がママの言葉を求めて集うように。昨年道路拡張工事により北沢5丁目に移転後も、店内のあちこちに飾られたママの名言(必読!)は健在。
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河村敏栄
オーナーを務める東京・代々木上原の「MAG BY LOUISE」では、花のワークショップやレッスンをメインに、読書会などユニークなコンセプトの活動を行う。昨年、インディペンデント雑誌『FLOWER magazine』を創刊。www.louise-flower.com
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松原博子
京都府生まれ。雑誌、カタログなどで活動。アーティストの大脇千加子さんに沖縄のクバの葉でオブジェを制作してもらい、女と葉をテーマに撮影中。
Edit: Akane Watanuki