デンマークの首都コペンハーゲン(CPH)を拠点に活動するフォトグラファー 松浦摩耶さん(@mayanoue)の新連載がginzamag.comでスタート。第1回は、夏の足音が聞こえ始めた5月のコペンハーゲンについて。
週末のパン屋、海辺のワイン、風と自転車、いつまでも明るい夜。初夏のデンマークより、mayanoueのCPH通信 01
2019年の秋にコペンハーゲンに引っ越して、気づけば3度目の夏。引っ越しのきっかけはちょうど5年前、日本のじめじめした梅雨を抜け出すように訪れた初夏のデンマークでした。
カラフルな水着でベンチに寝転がるおじさん
水辺で昼から乾杯するおばさん
すっぽんぽんで運河に飛び込むお姉さん
ビール6缶パックを片手に自転車で爆走するお兄さん
週末のパン屋に並ぶお父さんと子供と犬
いつまでも明るい夜の公園でおしゃべりするティーンのカップル
街で見かける人たちがそれぞれに気持ちよさそうで、みんないい空気吸ってるな〜というのが第一印象。そして、そんな人たちから溢れ出すおだやかな空気が街をゆる〜く流れているようなかんじ。南国のまったりとはまた違う、その不思議なゆるさに惹かれ、毎年夏にはデンマークを訪れるようになりました。
ある夏、もはや旅では終われない気がしました。「ここで少し暮らしてみたいかも…」そう思ったひとつの大きなきっかけが、アーティストのカリン・カーランダー(Karin Carlander)さんとの出会いでした。
おばあちゃんというには若すぎるけど、きれいな白髪で少女みたいに笑う彼女は、40年以上も織物をするテキスタイルアーティスト。コペンハーゲンから電車で30分ほどの静かな湖のほとりにアトリエを構えています。私はコペンハーゲンを訪れるたびに、アトリエの隅で数日泊まらせてもらい、彼女の暮らしと仕事を観察するのが大好きでした。
ある日、「海へいくよ」そんな声で目を覚ますと、アトリエの前に古い自転車が。ペダルに足がやっと届くくらいの大きな自転車にまたがり、森を走り抜けて海へ。
水辺に着くなり、彼女は着ていたワンピースをさっと脱いで、すっぽんぽんになって海へダイブ。(え、カリンさん、ノーパン、ノーブラで自転車乗ってたのか)と驚く私をよそに、1分ほどかるく泳ぐと、小さなリネンのタオルで体を拭いて、ワンピースをすぽっと着て自転車にまたがりました。
「自転車乗ってたら、髪はすぐ乾いちゃうから」そう笑い飛ばして、ワンピースをひらひらさせながら自転車でまたアトリエに戻って行きました。
もちろん、このときの私はコペンハーゲンの冬の薄暗いグレーの空も知らないし、突き刺さるような冷たい海風も、死んだように静まり返った街も知りませんでした。でも3度の冬を乗り越えて(冬は日本に少しエスケープしてますが…笑)、今ではそのコントラストさえも愛せてしまうほど、この街がすっかり愛おしい場所になっています。
そして今年もまた、そんな気持ちのいい季節がやってきました。
気温17℃、晴れ。決して夏のような暑さではないものの、冬の間の足りない日光を補うかのように、隙あらば太陽を浴びるデンマークの人々。街中の日向が人で溢れています。
先日は、橋の下のお気に入りのワイン屋「Rosforth & Rosforth」へ。ここの水辺に座って西陽を浴びながら飲むと「あぁ、夏が始まったな」と感じます。これを私は夏の開会式と勝手に呼んでいます。
ただ、気持ちのいい北欧の夏はあっというま。スウェーデン出身の友人がこの季節になるとよく歌っているのが、「Sommaren är kort(夏は短い)」という曲。タイトルそのまま、夏の短さを嘆く歌です。
「夏は風のように過ぎていく、だから今を楽しまなきゃ。今日は太陽が出てるけど、明日はわからない。秋はすぐそこだから〜♪」
そもそも5月を春と呼ぶのか夏と呼ぶのかも微妙なところですが、こっちの友人たちは “beginning of summer”といい、これから6月中旬の夏至までは、どんどん明るくなる夜の空を眺めては「見て、まだ明るい」と嬉しそうに言い合うのです。
今夜もまた昨日より少し明るい空を見て、これからやってくる夏に街中がわくわくしています。
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松浦摩耶
Instagram: @mayanoue