“クリエイトする人たち”の日々を支えるアイテムとは?偏愛エピソードと共にお届けします。
〈SETCHU〉デザイナー・桑田悟史 ひらめきをくれる愛用品

〈SETCHU〉デザイナー・桑田悟史
愛用品「シマノのルアー」

自らの服作りとも共通する
タイムレスな道具としての存在
「ファッションについて考える時間があまりにも長い僕にとって、唯一忘れさせてくれるのが釣り。子どもの頃からの趣味で、釣り道具を触っているだけで、仕事モードから気持ちが切り替わるんですよね」
そう言いながら、〈SETCHU〉デザイナーの桑田悟史さんが見せてくれたのは、使い込まれたルアー。世界各国、共に旅している相棒だ。
「プライベートの旅は釣りメインで行き先を選ぶし、出張先で少しでも空き時間があれば近くの水辺へ行きたい。だから、旅先には必ず釣具を持参します。訪れる場所の周辺にはどんな釣りスポットがあるのか、どんな魚が釣れそうなのか……。あれこれ考えながらリールや釣り糸などの道具を吟味します。特にルアーは、使った時の成功体験も選ぶ理由になる。日本のメーカーのものは、作りが精巧で耐久性もあって本当に優秀。なかでもシマノの製品は、デザインも好みで一番出番が多いですね」
釣りありきの旅のスタイルは、自身の洋服作りにも大いに影響しているという。
「僕は今、旅に持っていきたくなることもモットーに洋服をデザインしているのですが、〈SETCHU〉のシグネチャーとなっているオリガミシリーズは、実は旅のスーツケースの半分を釣具が占める自分のために作ったようなもの。服をたくさん持っていけないけれど、旅先ではどんな時でもカッコよくいたい。だったら、折り紙のように、1枚でいろんな表現ができる、着方ができる服を、という発想が原点なんですよね」
さらに釣り道具の在り方は、自分自身が洋服をデザインする際のアプローチと、どこか通ずるものがあるとも。
「釣り道具は4年に一度ぐらい新作が出るのですが、毎回劇的に変わったものが登場するわけじゃない。高品質でタイムレスな形はキープしながら、機能などを少しずつアップデートさせて進化していっている。iPhoneなんかもそうだと思うのですが、僕のブランドのコレクションもまさに方向性は一緒で。言うなれば、洋服も同じく道具なんですよね」
そんな桑田さんにとって釣りとは?と聞いてみた。
「ファッションを生業としている自分の反面、でしょうか。洋服と釣りは、まるでカセットテープのA面B面のような関係性で、現在の僕を形成しているのだとつくづく感じます」
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桑田悟史
くわた・さとし>> セントラル・セント・マーチンズ卒業。〈ガレス ピュー〉〈ジバンシィ〉〈イードゥン〉などでキャリアを積み、2020年に独立。23年LVMHプライズのグランプリを受賞。
Photo_Emanuele Finardi Text&Edit_Kazuyo Nojiri