“クリエイトする人たち”の日々を支えるアイテムとは?偏愛エピソードと共にお届けします。
金工師・鎌田奈穂 ひらめきをくれる愛用品

金工師・鎌田奈穂
愛用品「Perfumer Hのお香」

日常から切り替えるために焚く
仕事には冷静な目と心が必要だから
「ものの美しさはエッジで決まると思うんです。銀の器でも木や陶器でも、縁が締まっていると、きれいだなって思います。京都の職人さんが一本一本手作りしているというこのお香も、丸い筒型じゃなくて四隅が断ち落とされた角型。端っこがキリリとしているところが素敵です」
そう話すのは、純銀やアルミで美しい日用品を生み出す鎌田奈穂さん。金属を槌で叩いて成形する「鍛金」の伝統技法で、凜とした日常の器やカトラリーを作る金工師だ。彼女の仕事を支える愛用品は、2年ほど前に〈ARTS&SCIENCE〉で見つけた爽やかなお香。ロンドンのフレグランスブランド〈Perfumer H〉が京都の老舗店に依頼して作っているものだという。鎌田さんが使い続けているのは、柑橘系のエレミやシダーウッドがブレンドされた「INK」。香立ては真鍮製で、受け皿は自身が作った銀のリムプレートだ。
「仕事の前にリフレッシュするための必需品です。家族と暮らす自宅の一室を金工の仕事場にしているので、日常から仕事への切り替えにはちょうどよくて」
燃焼時間は1本で約30分。それを半分に折り、リビングのチェストの上で10数分だけ焚くのが毎日のルーティン。「朝はバタバタと子どもを小学校へ送り出し、家のことを終えるのが9時、10時。ゆっくりコーヒーを淹れてひと休み……という余裕はなく、そのまま金工の作業をスタートします」
仕事を始めるスイッチは、水筒に入れたハーブティーとラジオの音と、リビングから控えめに漂ってくるいつもの香り。
「心が自分の中の低い位置にストンと落ちて、冷静になれるんです。ものを作る時は、のめり込んで没頭するというより、ちょっと俯瞰した"引き目"で向き合いたい。例えば日常の器を作る場合も、陶器やガラスや木のお皿が並ぶ景色の中に、そっと添えるぐらいの感じが好き。ただし銀やアルミなどの金属は、ほかの素材に比べて存在感が強いので、少し引いた客観的な目線で作るくらいがいいのかな、と思っています」
美しいものを作るためには、冷静な目と平らかな気持ちを持つことが必要だ。だから身のまわりの家具や調度も、佇まいが静かなものを選ぶことが多いと鎌田さんは言う。心地よく澄んだ香りとわずかな時間で心を落ち着かせてくれるお香は、そんな空間にもよく似合っている。
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鎌田奈穂
かまだ・なほ>> 1982年熊本県生まれ。茶道具のレジェンドである金工師・長谷川竹次郎に師事した後、独立。銀やアルミで器やアクセサリー、茶道具を作る。次の個展は2025年2月に銀座の「日々」で。
Photo_Keisuke Fukamizu Text&Edit_Masae Wako