現代アーティストのトム・サックスがNIKEと共同開発している〈ナイキクラフト〉。2022年9月に新作となる「ナイキクラフト ジェネラル・パーパス・シューズ(GPS)アーカイブ カラー」が発売に。どんなシーンにもふさわしい究極のスニーカーとして誕生したGPS。良質でオールラウンドなシューズに込めた特別な思いを、デザイナーのトムにインタビュー。プロダクトづくりの背景をじっくりと聞かせてくれた。
ナイキクラフト ジェネラル・パーパス・シューズ。一足でどんな場面も快適な万能スニーカー。
──ナイキクラフト ジェネラル・パーパス・シューズ(以下、GPS)が誕生したきっかけを教えてください。
Tom Sachs(以下、TS) 2012年に宇宙へ行く人のため、NASAでも活用されるべきシューズとして「マーズヤード」を発表しました。特別な目的を持ったシューズでしたが、それを作ったからこそ、誰もが毎日履ける汎用性の高いシューズを作ろうと考えたんです。ランニング用やバスケットボール用などスポーツごとに専用のスニーカーもありますが、今回私が大切にしたのは、これ1足で全部できることでした。
──どんな場面にも対応できることの最大のメリットはなんでしょう?
TS 少ないシューズでたくさんのことをできれば、生活もスタイルもシンプルになります。たとえば、スティーブ・ジョブズの黒のタートルネックにジーンズという決まったスタイルや、アインシュタインも常に同じ服を着ていたと言いますし、ユニホームのような感覚。GPSもそのような存在としてみなさんに手に取ってもらいたいと思っています。そのために、デザイン要素を減らし、できるだけ簡素なシューズに仕上げました。また、1人の消費者として、すぐに物が捨てられてしまう現状に疑問を持っていたため、一つの靴をたくさん履いて、ソールを張り替えたり、汚れたら拭いたりしながら愛着を持ってもらえるような物が作りたいと考えました。
──NYのご自身のスタジオでは、スタッフもトムさんも全員がこのGPSを毎日履いていますね。
TS 働く皆が使えるシューズを作ろうと思ったんです。毎日NYCで履けるものであり、スタジオにこもって1日中仕事をするときでも、写真撮影をしたり、パソコンで作業するときにも、夜の外出でも使えるように。エレガントでシンプルでどんな服にでも合うシューズを作りましたので、みんなも履いてくれていることは嬉しく思います。
──GPSシューズの機能面については、どのような特徴がありますか?
TS 最軽量・最速というわけではありませんが、サポート性があり、いろんな路面に対応できます。アウトソールは固いラバー、ミッドソールは中程度の柔らかさがありクッション性を感じると思います。そして、内側には柔らかいフォームのカップソールを用いて足入れが快適なように工夫しています。アッパーは布帛素材です。一日中履きこなせるデザイン性と機能性をとても重視したので、汎用性の高い一足が完成しました。
──シェードのかかったイエローを選んだ理由も聞かせてください。
TS イエローはいろんな意味でナイキの歴史を表現する色で、ナイキアーカイブのカラーなんです。この色そのものを使ったシューズがあるわけではないのですが、70年代に”50オレンジ”とよばれる赤に近いカラーをはじめ、いくつか特徴的な色があり、イエローもブランドの歴史を象徴するカラーだと考えました。レトロというより、時代を超えてどんなスタイルにも合う、変に目立つわけでもなく履きやすいカラーだと思います。だからこそ、あれこれ靴を揃えずとも、少ないシューズでなんでもできるという私の思いを表現できる色だと考えました。実際、1日中同じ靴を履き続ける人はたくさんいます。私も2〜3ヶ月毎日色々なところで履いてみましたが、どんな服装にも合わせやすく色々な場面で履けると実感しています。今後は他のカラーも発売される予定です。
──サイズ展開も今までにない画期的なものですね。
TS そうですね。まず女性のサイズから表記しているんです。些細なことだと感じられるかもしれませんが、メンズサイズを優先的に表記してしまうと「男物かな?」と思われてしまいますし、女性たちに「自分が対象になっているシューズだ」と認識してほしいと考えました。それと、通常一般向けとして販売されるシューズには女性の US サイズ5〜6.5(男性 US サイズ3.5〜5)がありませんが、GPSは全サイズ展開をしています。足の小さな女性が大きめのキッズサイズを履いたり、足の大きな女性が小さめのメンズシューズを選ぶのではなく、自分のサイズを見つけてもらえるようにしたかったんです。履く人の半分は女性ですからね。全ての人に履いてもらいたいジェンダーレスなシューズです。
トム・サックス氏。NY生まれの現代アーティスト。ファッションをモチーフとした作品も多く、メトロポリタン美術館やポンピドゥー・センターほか、世界各地の美術館に作品が収蔵されている。ナイキとは2012年に初めてのコラボレートシューズ「マーズヤード」を発表した。
──ナイキクラフトの新作を心待ちにしていた方へメッセージをお願いします。
TS GPSは私とナイキの価値観が本当に一致した完璧なコラボレーションだと自負しています。と同時に、まだ完成には至っていない、もっと改良の余地があるという気持ちもあります。仕事とは、常に完成には至らないものだと考えているんです。来年はもっとフィット感が良くなったり、さらなる試行錯誤を経て改善したり。それが大事なことでもあると思います。私は、14歳の時に初めてワッフルトレーナーを買って以来ずっとナイキが好きでしたが、こうして大人になりオーセンティックなものを共に作れるようになりました。好きなことを見つけてずっと取り組み、こだわることが大切だと若いみなさんに伝えたいですね。難しいことや辛いこともあるけれど、一生懸命頑張ることは必要で、その結果上達することもありますよね。成功も失敗も努力によって生まれます。このシューズもまた努力の成果です。私のスタジオでも「たくさんトライすることはいいことだ」と伝えています。そうした中から、また次のプロダクトをお届けできたらいいなと願っています。