22 Jun 2018
女がヒールで歩く日は「エイジレスより、タイムレス」

ある日、いつも通り本屋をうろついていると目に入ってきた「美しくなるにつれて若くなる」というタイトル。
手に取ってみると、それは大人のたしなみをテーマにした白洲正子の随筆集だった。
表紙に刻まれた「わたしになる成熟」という言葉が印象的なこの本は、今でも我が家の本棚の取り出しやすい位置にそっと佇んでいる。
女として生まれたからには老いが怖くないと言えば嘘になるけれど、私は昔から恐怖よりも楽しみに感じることの方が多かった。
大人になったからこそできること、似合うもの。
祖母から指輪を譲り受けた時に「こっちはまだ若い手には似合わないから、そのうちね」と言われた経験がそうさせるのかもしれない。
いいものであるほど、若い、未熟な自分には不釣り合いだということ。
命を燃やして成熟したからこそ身につけられるものへの憧れは、いまだに私の原動力になっている。
「若い者に余裕がないのは当たり前です。むしろそれゆえに美しいのです」と白洲正子は言う。
いつも何かに焦っているような、生命の輝きからくる美しさは若さの特権だ。
でも、火が燃えたら炭になるように、命も燃えれば体という容れ物は老いていく。
その老いをとめるのが「エイジレス」であり、誰もが若く見えることに必死になっているのだけど、私は今の一瞬一瞬が人の記憶に残るような、「タイムレス」な人を目指したいと思っている。
30歳の私も40歳の私も変わらないね、と言われるよりも、30歳の私の印象がずっと残り続けるような、思い出を真空パックにいれて時をとめたような存在になりたい。
それこそが本当の意味で「老いない」ことだと思うから。
年を重ねるごとに体は老いていくけれど、その代わりに精神は成熟していく。体と精神は表裏一体の関係だ。
ミニスカートや派手色のネイルなど、年を重ねたら似合わなくなる、手放さなければならないものも増えるけれど、逆に大人になってからしか体に馴染まないものがあるのは、美しさというものが体だけではなく精神の成熟とも密接な関係があるからだろうと思う。
加齢によって失うものもあるけれど、同じ分だけ得るものもある。ただ、得たものに気付けるかどうかだけの話だ。
抗わず、乗りこなす。美しくあり続けるために必要なのは、「エイジレス」より「タイムレス」を目指すことなのかもしれない。
最所あさみ
Asami Saisyo
大手百貨店入社後、ITベンチャーを経て独立。Webメディアを起点としたコミュニティ形成やコマース事業のプロデュースを行うかたわら、個人でファッションや小売にまつわる有料マガジンを発行。
個人note:https://note.mu/qzqrnl
Twitter:https://twitter.com/qzqrnl
安藤晶子
Akiko Ando
個展で作品を発表するほか、雑誌の挿絵、CDのアートワーク、ファッションブランドのイメージビジュアル等を手がける。
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Text: Asami Saisyo Cover Illustration: Akiko Ando