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はじめまして、ザ・クラシックス〜近代日本画編

はじめまして、ザ・クラシックス〜近代日本画編

そろそろ知っておきたい古典の世界。その嗜み方・楽しみ方のツボはどこにある?


人力8Kで挑む、絵画のエクスペリメント

最近日本画がすごく気になっている。私にとって、その可能性を拓いてくれたのが、近代日本画の巨匠、菱田春草と速水御舟の作品だ。

日本画は刷毛や筆などを使って描く。油絵の様にように上書きできない一発勝負の線や面には緊張感が漂う。しかも着物の柄や動植物は、毛1本で描いてるんじゃないの?と思うほど。超絶技巧がガツンと響く。なかでも春草と御舟の作品は繊細で透明感もある。でも試みはすごく野心的。そのギャップにやられてしまった。

菱田春草の名作とされる[落葉](1909年)は、六曲一双の屏風いっぱいに枯葉が落ちた林を描いている。まず、筆づかいの精度がとんでもなく高い。虫食いの跡までも丹念に一枚一枚描かれた落葉。木々の連なりと落葉は奥に向かうにつれて薄くなり、終わりが見えないままフェードアウトしていく。ジグザグに折れた屏風の状態で見ると、絵の前を通り過ぎる間に面の見え方が次々変わって、自分が静かな秋の林に迷い込んだかのような気分になる。透視図法を使わない奥行きの行源を試みたこの作品。その実験を圧倒的画力が支えている。

速水御舟の絵もまた、精密な描写が素晴らしい。傑作[炎舞]は、仏画の火焔のように様式化された炎の上を、本物と見間違うほど精緻に描かれた蛾が飛んで身を焦がすファンタジックな作品。写実と抽象が違和感なくひとつの画面に収まっている。なのに蛾がぱちぱちと燃える音まで聞こえそうなほど狂おしさがある。金地に古木を描いた[名樹散椿]はデフォルメした構図に見える一方で、椿の花や葉の細部は徹底的に写実的。遠くから見るのと近寄るのとではまったく異なる印象を与える不思議な絵だ。この作品は恵比寿の山種美術館で開催される展覧会『日本画の挑戦者たち』にて、10月16日(火)から特別公開される。先の[落葉]ではないけど、春草の名品も出るのでおすすめ。ここは重要文化財をはじめ数々の名作を所蔵する日本画専門の美術館。同館で来年開催の『速水御舟』展には[炎舞]も出るそうで、今から楽しみだ。

 

最近の映像は8Kなど解像度を上げ続けて、リアリティの強化を競っている。それとは逆に、現在のアートはアイデアの鮮烈さや新しさがモノをいうところが大きい。ところが、春草や御舟の作品は、8Kレベルの解像度と内容の実験精神がある。今では別物とされてしまったふうもある二つの方向性が共存していて、なんかすごいじゃん、と思ってしまうのである。

日本画とは、文字通り日本の伝統的な絵画のこと。日本に西洋文化が入ってきた明治期に、それと区別するこの呼称が誕生した。つまり近代の日本画家は、自分たちのアイデンティティを見つめ直す時代のなかで描いていた。だから日本画には伝統に収まらない葛藤や確信がつまっている。村上隆は日本画専攻、会田誠の作品には日本画をテーマにしたものもある。その確信は今も受け継がれているのだろう。


速水御舟[名樹散椿]【重要文化財】1929(昭和4)、紙本金地・彩色・屏風(二曲一双)、山種美術館
この作品や菱田春草[月下牧童]のほか、日本画の巨匠たちの名品が並ぶ展覧会が9月15日より山種美術館にて開催。企画展『日本美術院創立120年記念 日本画の挑戦者たち ―大観・春草・古径・御舟―』≫ 2018年9月15日(土)〜11月11日(日)〔[名樹散椿]は10月16日(火)〜11月11日(日)に展示〕


速水御舟[炎舞]【重要文化財】1925(大正14)、絹本・彩色、山種美術館
こちらは、2019年6月8日(土)〜8月4日(日)に開催の『山種美術館 広尾開館10周年記念特別展 速水御舟』(会場:山種美術館)に出品される。

Illustration: Hitoshi Kuroki Text: Utako Saruta 

GINZA2018年10月号掲載

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