01 Jan 2019
はじめまして、ザ・クラシックス~美味しいだけじゃない「和菓子」の世界

そろそろ知っておきたい古典の世界。ミチルさんと一緒に探求しよう。
おいしいコミュニケーションツール
豊作を願うおまじないが由来。たとえ同じ和菓子でも、名づけひとつで別物にだってなりうるのだ。
季節や行事にちなんだ菓銘も多い。6月30日に食べる和菓子「水無月」は、たいてい三角形のういろうの上部に、小豆が散りばめられている。この日は「夏越の祓い」といって、宮中では氷室の氷を取り寄せ、盛夏の無病息災を祈った。三角形はその氷をかたどっていて、小豆の赤は邪気を払うものだったとか。「未開紅」は新春や2月に作られることが多い和菓子。薄紅と白の「こなし」生地を薄く四角く伸ばして重ね、羊羹や餡を包む。開きかけの梅を、自然そのままではなく、デフォルメしてデザインしているのが、いかにも雅なところ。
定番以外でもたとえば、そぼろ状のきんとんは、黄緑と桃色なら葉桜、黄色と橙色で紅葉など、色遣いによって何でも表現できてしまう。マニア気質の別の友人は、「季節で出るものが違うから、お気に入りのお店に通ってもなかなかコンプリートできない!」と、楽しんでいる。
お茶の席では、亭主がその場限りのオリジナル和菓子を考案して名づけ、お客に出したりすることもある。そもそもクラシックな和菓子の世界は、伝統芸能と同じく「間」が大事。背景にさまざまな文化が潜んでいても、相手に押しつけがましかったり、説明過剰だったりしては興ざめだ。でも、いただく側が興味をもって訊ねてみれば、お店でも、茶席の亭主でも、込められた思いを話してくれるはず。そういうふうに、和菓子は相手に解釈や感想をゆだねることで成立するコミュニケーションツールでもある。だから、素敵な和菓子は、高度で繊細な技術はもちろん、伝統的なデザインや素材をふまえたうえでの「ひとひねり」で完成する。そこに、伝統文化でありながら、職人の創意工夫の余地が残っているのだ。
こんなに小さな和菓子に、これだけの要素が詰まっているなんて面白い!と思えたらちょっと大人。ひとくち、ふたくちの間であっても、味わう側の気合も入るというものです。
Illustration: Yuka Okuyama Text: Utako Saruta Cooporation: Asaki
GINZA2019年1月号掲載