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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.1 イチゴ柄の便箋

家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.1 イチゴ柄の便箋

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.0 プロローグ


vol.1 イチゴ柄の便箋

パスワードを打ち込み液晶画面のロックを解除する。
マスクをしているから顔認証機能が使えないのだ。

未読メッセージの上で一瞬動きが鈍くなった親指に素早く喝を入れ雪景色の中で笑っている女の子のアイコンを探す。上にスクロールし過ぎて見逃してしまったらしい名前をやっと見つけて「レコーディング意外と早く終わりそう。会える?」とメッセージを送った。

何千回何万回と呼んだ名前宛に送ったメッセージをしばらくじっと見つめながら、少し遠いところに出かけていた。ほんの数秒、うんと遠いところに。

気づいたら左頬の内側を噛んでいた。心の中で小さくため息をつく。言いたい事が言えなかったり、考え事をする時、ついやってしまうわたしの癖。酷いと鉄の味が口に広がる。やめようと心がけてはいるけれど、トリガーはそこら中にあって。簡単に思えることが中々けっこう難しい。だからわたしの左頬はいつも少しザラついている。

だけど前に猫の舌みたいだねって言われて以来、案外気に入っていたりするから、まぁそのうちしなくなるだろうと呑気に生きてる。

談笑中だったスタッフに「やりますかねー」と再開を呼びかけながら、右腰を軽く浮かせジーンズのバックポケットにスマホをねじ込む。インサートカップに入れたコーヒーをひと口飲み、頭を切り替えた。

その日、5月13日リリースの1st EPの制作が佳境を迎えていた。新曲1曲とカバー5曲を収録するそれは、本当に特別なものになった。ずっとご一緒してみたかったSOIL & “PIMP” SESSIONSの皆さんに山口百恵さんの「秋桜」をアレンジしていただいたり、テレビ番組で共演して以来またいつか制作で再会を果たせたらと思っていた冨田ラボさんに平井堅さんの「POP STAR」を全く新しい解釈でアレンジしていただいたりと、また音楽が好きになった。

この日はエレファントカシマシの「悲しみの果て」を、バンドメンバーとライブの臨場感を大切にレコーディングしていた。はじめましてに近いアレンジャーさんとご一緒することが多かった今回、どの現場も刺激に満ち溢れ、とても楽しかったけれど、バンドメンバーの顔を見た時の安心感もまた特別だった。

一緒にスタジオに入り、全神経を集中させて録るスタイルを何度も繰り返すのは違う気がして、その数回に懸けて、1番良いテイクを選ぶことにした。よって予想していた時間よりかなり早めにレコーディングが終了したのだった。

時間は有限。いきなりプレゼントされたその時間をどう使うか。すぐに彼女の顔が浮かんだ。

彼女はこの春、東京の会社を辞め地元福岡に帰ることを決めたのだった。その決断を聞いた夜、帰るまで会えるときは会おう、と改札で別れたはずだったけど、お互い自分の日々に戻ってしまうと目の前のことに精一杯で。今日どう?と朝連絡しても、夜になるとどちらかが、今度にしよっか、と言い出すいつもの私たちだった。

気づいたら、もうあと数日で彼女が実家に帰る日になっていた。流石に会いたい、と思い焦燥にかられ連絡を入れたら、彼女も同じ気持ちでいてくれたみたいで。レコーディング終わりに会うという話がまとまった。

先にお店に入っていた彼女を見つけて手を挙げる。席に着いて注文する。いつもと変わらない、何でもない話をしてコーヒーを飲んだ。この日はパフェも食べた。

お会計をして外に出て、歩き出そうとした時、彼女が自分の鞄からすっと手紙を出して私に寄越した。街の喧騒が無音になった。色んなことが一気に押し寄せてきて、私はただじっと彼女の目を見た。「引っ越し済ませちゃって、便箋、こんな中学生みたいなやつでごめん」と照れくさそうに。彼女から手紙を貰うのなんて、20歳の誕生日以来だ。声が発せず、無言で手紙を受け取る。

勿論これからも彼女には会うだろう。私の人生に必要な人だから。だけど、次会うときは、大きなトピックスを話すのだろうなと思った。結婚した、とか、こんな大きなプロジェクトを始めたとか、そんなこと。中身がある話。

近所の野良猫が可愛くて、とか、あの店の焼きたてパンがとか、喋っているようで喋っていない感じ、が、また彼女とできると良いなぁと思った。本当にできると良いなぁと思った。

そして、いくらでもそうできる時間があったのに、目の前のことにかまけて、そうしなかった自分と、それをどうしても難しくしてしまう東京という街の時間の流れを少しだけ、憎んだ。

今この瞬間。

ニュースで報じられる世界のこと、日本のこと。色んな立場があって、その人の立場に立って世界を見ると、全部正解だ。起こったことが変わらないなら、起こったことをポジティブにしていくしか、ない。

悲しみ、虚しみ、やるせなさが止まらないこんな時、急にできた時間を、ほんのすこし、本当に自分にとって大事な人と過ごす時間に使ってみませんか、と心の中で思う。

食べる為に、働く。

理想論だけではご飯は食べられない。

だけど、幸せになる為に、わたしもみんなも生まれてきたんじゃないのかな。

寝る前に、子供や家族、好きな人にハグするだけでも良い。いつもありがとう、って伝えてみるのも素敵。

みんながどうか笑って過ごせますように。

家入 レオ Leo Ieiri

1994年生まれ、福岡県出身。17歳のメジャーデビュー以降、ドラマ主題歌やCMソングなどを多数担当。2020年5月には自らが厳選したカバー楽曲も含む1st EP『Answer』をリリース。
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」
leo-ieiri.com
@leoieiri

Cover Illustration: Yui Horiuchi Edit:Karin Ohira  

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