クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.12 今ここ、を生きる
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.13 男性脳と女性脳
vol.13 男性脳と女性脳
「あの二人を近くで見てると、すごいもどかしい気持ちになるんだよね」
彼女がその話を始めた時、わたしは、ナイフとフォークでローストビーフを切り終えたところだった。
少し前屈みになりながら、小さくカットした赤身肉をお皿から口へと運ぶ。
咀嚼しながら身体を元の位置までゆっくり起こしていく。
テーブルの向こう側から、その一部始終を見ていたらしい彼女が、「そんなに美味しい?」と可笑しそうに尋ねてくる。
わたしはその場で動きを一旦止め、目線だけを少し先に上げた。
真正面に座っている彼女と上目遣いのまま目が合う。
「とっても」
悪戯を企んでいる子供みたいにグイッと口角を上げると、彼女もハイボールを飲みながらそれに応えてくれた。
今年から実家にお世話になっている彼女。
引っ越す前は、自分がまた誰かと一緒に生活していけるのか不安がっていたけど。
スタートさせた家族との共同生活はとても快適らしく、落ち着いたら遊びにおいでよと連絡を貰う程だった。
それでもやはり、久しぶりに外で友達と会っていることが、いくらか彼女を高揚させているようで。
普段はお酒を飲まない彼女が、今日は待ち合わせのテーブルに着くなり、アルコールのメニューを手に取ったので、楽しい夜になりそうだ、と密かに思っていたのだ。
付け合わせのマッシュポテトを食べながら、「ごめん、あの二人って?」とわたしが話を元に戻すと、彼女は「パパとママ」と簡潔に答えた。
彼女のお母さんは、数年前に重い病を患った。
その時の家族の一致団結ぶりには胸を打つものがあった。
各々ができることを探し、協力し合う。
その甲斐あって、彼女のお母さんは今でも元気に過ごしている。
定期的に開催されるホームパーティーで振舞われる料理はどれもプロ顔負け。
とても仲の良いご両親で、いつかこんな家庭を持ちたいなぁ、と庭のアウトドアチェアに座りながら二人を眺めていたので、彼女が何を言おうとしているのかわたしには分からなかった。
「ママが病気になった時、パパは医学書を読みあさって、病院にもたくさん行ったのね。時には県外の病院にも。」
「それにはママも勿論感謝していたし、パパも本当に一生懸命だった。二人は側からみても愛し合ってると思う」
「だけど、ママが言うの。ママは専門用語で病気のことを説明されてもよく分からない。調べてくれるのは、とても嬉しい。でもね、大丈夫だよ。心配ないよって。ただそれだけで良いの、って。」
「パパもパパで、やっぱりすこーし、言葉が足りないなって思うことがある」
わたしは、あぁ、男性脳と女性脳ってこんなに違ってしまうんだ!と思った。
わたしだけではなく、きっとこのエッセイを読んでいるみなさんにも似たような経験があるのではないだろうか。
どちらにも、お互いを尊重し合う気持ちがあって、だけど、それが何故か相手に伝わらないもどかしさ。
「伝える」ってそもそも誰の為?
「相手の為」
自分が困っている時に言ってもらいたい言葉と、相手が求めている言葉の違い。
そんな当たり前を、何故忘れてしまうんだろう?
泣いている子供が目の前にいたら、言葉で解かず、ただその子を抱きしめて、大丈夫だよ、と背中を優しく摩るだろう。
逆に、もっと目に見えるもの、数字でそれを証明してもらった方が安心できると人もきっといて。
もし、大切にしたいと思う人がそちらを愛だと感じるなら、わたしは自分ができる範囲でデータを集めて、それを彼なり、彼女なりに説明しようとするだろう。
相手に、どう安心してもらうか。
つい自分と混同して考えてしまうけれど、やっぱり、一人一人感じ方は違うものだから。
大切な人に合わせて、愛を伝えること。
そのオーダーメイドが世界を豊かにするのだと思った。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri
Cover Illustration: Yui Horiuchi Edit:Karin Ohira