クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。26歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.38真夜中のキッチン
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.39 夕方5時のチャイム
vol.39 夕方5時のチャイム
夕方5時を知らせるチャイムが自宅の仕事部屋に流れ込む。キーボードを叩いていた手を止め、視線をパソコンの画面から窓の外の空へと移した。オレンジの奥に迫る紺。もうすぐ冬が来る。そんな感慨を覚えながら夕焼け小焼けのメロディに耳を傾けていると、もう何度も聞いたことがあるはずの旋律が胸に不思議な響き方をして、鼻の奥が少しツンとした。
忘れ物を思い出すみたいに記憶が巡り蘇る。ジャングルジムの上でした指切り、もみあげについたレの字の寝癖、校庭の地面に半分埋もれたタイヤの影、シンクで手と口をベトベトにしながら食べた果実、母のエプロンを借りて作った夕飯。いろんな年代のいろんな幸せがあたたかく私を今一人にする。もう一度その時間に参加したい、と駆けて行って記憶の扉をいくらノックしても決して内側には入れない。確かに自分の人生に訪れたものが、もうここにはないものになって、記憶の中で生き続けていくこと。 そんなもので人生は出来上がっていくのかもしれない。だからこそ、なんでもない日々を大事にしたい。つい、忘れてしまうけど。
そして、いつか振り返った時、懐かしさで胸がいっぱいになるのは、何かを議論したり、高め合ったり、そういう正しさだけの時間よりも、もっと馬鹿らしくて見落としがちな瞬間や仕草な気がする。好きな人のかっこいいところよりも、なんかちょっとかっこ悪いところの方が良い感じだなって思っている自分に気づいた時の、あの感じ。
窓の外ではチャイムが鳴り終わり、慣れ親しんだ部屋の静けさで気持ちを整え小さく息を吐いた。椅子を半回転させ、さっきと同じ格好でまたパソコンの画面と向き合う。左頬の内側を噛みながらキーボードを叩く。こんな淡々とした一日だって忘れたくないな。ミュージックを開き、気分転換にあの歌を流した。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri