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小さな世界、小さな口福「四季の点心」井口海仙『編集Sの ”食”限定ブックレビュー』
小さな世界、小さな口福
ここ何年かずっとやりたいことのひとつに、懐石料理を習うということがあった。振られ続けていた教室「A」に空きが出たということで、思い切って通うことにした。
そんな折、友人から「この本があなたのところに行きたがっていました」と素敵な本が送られてきた。大きなお屋敷でお母様(粋人)のコレクションの整理をしていて偶然見つけた本だという。私が懐石料理を習いたがっていたことを覚えていてくれたのだ。本だけじゃなく着物も器も「お宝がたくさんあって大変よ」と話す彼女は、介護やそれに伴う親の人生への介入に忙しそうではあったが、何か吹っ切れた力強さがみなぎっていた。
『四季の点心』(井口海仙著) 昭和48年の初版本。版元は京都の淡交社。
茶会に合わせちょっとした食事を作ってくださいと16軒の老舗料亭に季題を出し、腕をふるってもらうという、今ではなかなか考えられない豪華な編集である。Aも名を連ねている。近づいてきた「月見」や「十六夜」のページを眺め、季節の違う「潮干狩」や「雪見」にも思いを馳せる。実用向きとは言いにくいけれど、客人を楽しませ旬を面白がる工夫がたくさんあって見ていて飽きない。買おうとしてもなかなか手に入らない、そんな一期一会の本だ。今度の仲秋の名月には白飯をまん丸のおむすびにしてみようかな。
後日また不思議な話があった。ある友人マダムとLINEをしていたら、「Aで懐石料理を習っていたのだけど、忙しくて一旦休講することにした」と言う。彼女が休んだ時期と私が通い始めた時期がちょうど重なる。彼女の席を譲ってもらったのだ。出会うべき人に会えたら世界はより狭くなり、面白いことがあるものだなと感じた出来事だった。
右のお題は「秋の彼岸」。おはぎ、野の菜の天ぷらなど。こんなお弁当を持って、墓参りを口実に郊外を散策したい。左は「月見」。月見台には丸型のご飯、ずいき、子持ち鮎の甘露煮など。
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編集S
夏休みは半日の小さな旅をいくつかした。鎌倉覚園寺の薬師如来さんに会いに行き、明王院八百善で食事をしたり。新潟の八海醸造にも新幹線で遊びに行った。