03 Jan 2019
「似合う服」に潜む、思い込みの悲劇を回避せよ――齋藤薫の「女とおしゃれのアナリシス」 第八章

似合う服の、思い込み。
私に似合う服は、一体どこにあるのだろう?
今ここでドレッサーの中を思い浮かべてほしい。あなたに1番似合う服って、どの服だろう。なぜそう思ったのか、何を根拠にそう思ったのか、一緒に思い浮かべてみてほしい。
「今日の服、素敵!」と言われた。「その服、どこの?」と聞かれた。そういう言葉を周囲から投げかけられた服は、「自分に似合う服」と思っていい。1日に2回以上褒められた服なら、1番似合う服と位置付けていいと思う。服もナマモノで、その人にちゃんと似合い、馴染んでいなければ、どんな美しい服も良い服に見えないから。
でもひょっとするとそれは、自分が1番似合うと思っていた服とは別のものかもしれない。じつは、”自分に似合う服”には思い込みがある。残念なことに、たいして似合わない服を、似合うと思い込んでいる人が少なくないのだ。
自分に似合うのはこんな色、自分に似合うのはこんな形、自分に合うのはこんな丈……そういう断片的な要素を、一着にまとめて似合う服と決めつけているケースが少なくないのだ。例えば、私には丸襟が似合い、黒が似合い、ストンとしたAラインが似合い……というふうに似合う要素をひとまとめにしても、まるで喪服みたいな地味な服になるだけ。言い換えれば状況証拠を複数組み合わせて、それと信じ込んでしまう。でも服は、花束と一緒で一輪一輪は綺麗でも、全てはアレンジしてどうかなのだから。
そういう目で、周囲の人を見回してみて欲しい。他の服の方がよく似合うのに、じつはあまり似合わない服を頻繁に着ている人が、あなたの周りにもいるはず。もちろん指摘するのは難しいが、もし彼女の幸せを思うなら、今日の服の方が10倍似合うのに、と言ってあげよう。 そのぐらい人は自分のことを知らない。自分を見られないのは、この世の中で自分だけ。自分自身にも全く同じことが言えるのだ。
じゃぁ、彼女に似合う服とは、どんな服か。そうやって客観的に”似合う服”の”似合う理由”を考えてみてほしい。
それはズバリ、彼女が美人に見える服。彼女がほっそり痩せて見える服。必ずどちらかであるなずなのだ。いや、もっと言うなら、美人に見える服=痩せて見える服。2つの要素は、決して矛盾しない。痩せて見える服は、美人にも見えるのだ。その法則を知っていないと、みんなオシャレで損をする。頭で考えた似合う服にこだわりすぎてしまうから。
服って不思議。美人に見えたり、着痩せしたり、生まれつきそういう力を持った服が存在する。けれどもそれがどういう服であるかに、明確な定義はない。ブランド物だからすべて着痩せすると言う話でもないし、ファストファッションにだって美人に見える服は存在する。もちろん、トレンドかどうかも別次元の話。
強いて言えば、七分袖とか、ウェストのくびれとか、鎖骨が見える胸の開きとか、肩甲骨がチラ見えするバックスタイルとか、ちょっとしたディティールにそうした効果が潜んでいるもの。周りを見渡して、誰かを美人に見せている服は、どこがどう美人に見えるのか、なぜ美人に見えるのか、その理由を見つけて欲しい。
それをヒントに自分も服選びすると、ひょっとしたら不意に見えてくるかもしれない…自分を美人に見せ、そして着痩せする服。
ともかく思い込みをやめよう。日々、効率の良い幸せにつながるオシャレをするために。
文/齋藤薫 さいとう・かおる
美容ジャー ナリスト/エッセイスト。女性誌編集者を経て、多数の連載エッセイを持つほか、 美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中 。近著の『 “ 一生美人 ” 力 』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「 個人 」でコラム執筆中 。
イラスト/千海博美 ちかい・ひろみ
イラストレーター。版木に着彩後、彫りを入れる技法で作品を制作 。
広告、書籍装画、テキスタイルなどのイラストレーションを手がけ る。