18 May 2019
自意識を着こなすべし。夏こそ街中でプールサイド・ファッションを――齋藤薫の「女とおしゃれのアナリシス」 第十一章

異常な夏は、むしろチャンスである。
大胆すぎるファッションに挑戦するための。
最近の日本の夏、一体どうしてしまったのだろう。邪悪なまでに強い紫外線と、東南アジアも顔負けの目眩がするような高温多湿。だから本来の夏好きでさえ、夏が来るのちょっと怖い。
それでも平然と受け止めなければいけないのが季節というもの。ならばいっそ、そういう過酷な夏だからこそ、負けないだけのオシャレをしたい。でないと、夏はただ不快なだけの、暑苦しいだけの季節になってしまう。そうではなくて、過酷な夏さえ楽しんでしまえる攻めのオシャレが、実は人生を楽しくし、女のセンスを鍛えてくれるのだから。
そこで提案したいのが、街中でもプールサイド・ファッション。この際だから”第一級の夏”をオシャレで表現しまおう、いっそ思いっきり人目を惹く、最大級のオシャレをしてしまおうという提案である。
大丈夫。眩しすぎる煌めきが、不思議な自信を持たせてくれるから。そしてとても単純に、プールサイドでは、女はみんな放っておいても大胆になる。なぜならプールサイドは、典型的な非日常。夏のパーティーが基本的にプールサイドで行われるのも、そこが非日常という聖域で、日常がわずかも立ち入れないほど圧倒的なドラマ性を孕んでいるから。必然的に、誰もが非日常的なオシャレをここぞとばかりに謳歌してしまおうと思える一種のランウェイなのだ。
そこで、街でもプールサイドのつもりで露出は多いが、ロング丈のふんわりしたドレスを着よう。素材が夏らしいコットンやリネンならば、大袈裟にならずにナチュラルな印象のまま、華やかに人目を惹くインパクトを併せ持つことができるはず。夏だからこそ、尋常でなく暑い夏だからこそ、まるでイブニングドレスみたいなサマードレスも全員が着こなせる。街中プールサイドだと思えば、そういうドレスアップも、臆せずにずにできるはずなのだ。
さらに言うなら、プールサイドでは日中、強い日差しがさんさんと降り注ぎ、夜は涼しい風が吹き付ける。プールサイド・ファッションは、何よりもそういう自然をそのままに感じさせるドレスアップであるのが望ましい訳で、サングラスや大きな帽子、あるいはドレスも風を受けてひらひらと揺れるものでなければいけない。必然性があればどんな大胆な表現も不自然に見えないはずだから。
極寒の冬が、帽子もファー、コートもブーツもファーみたいな、やり過ぎファッションをも普通に見せてくれるように、想定外の暑さや寒さは、オーソドックスな装いの常識を、難なく逸脱させてくれるはずなのだ。
そしてやっぱり、プールサイド・ファッションの約束は、プールで1番目立つ存在になろうとする自意識をもつこと。プールサイドで控えめにしても何の意味もない。誰かに見られている、きっと誰かに振り向かれる、という自意識もコーディネートの1つとして、必ず身に付けていくこと。
ちなみに、ストローの帽子やサングラス、ストールなどの小物使いも”見られること”を存分に意識すると、不思議にとてもうまくいく。こういう時、臆病になることが1番洗練に反することなのだ。ちょっとやりすぎ位が美しい、それがリゾートファッションであり、プールサイドパーティーの掟なのだから。
いずれにせよ、「私はこのプールサイドで一番いい女!」という心意気 ! 尋常ではない夏こそ、そこに挑むチャンスである。
文/齋藤薫 さいとう・かおる
美容ジャー ナリスト/エッセイスト。女性誌編集者を経て、多数の連載エッセイを持つほか、 美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中 。近著の『 “ 一生美人 ” 力 』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「 個人 」でコラム執筆中 。
イラスト/千海博美 ちかい・ひろみ
イラストレーター。版木に着彩後、彫りを入れる技法で作品を制作 。
広告、書籍装画、テキスタイルなどのイラストレーションを手がけ る。