25 Jul 2020
マスクコーデの正解はここに――齋藤薫の「女とおしゃれのアナリシス」 第十六章

半世紀を経てようやく主役に躍り出るか?
「マスクに最も似合う服」発見!
どんなにオシャレをしても、どんなにメイクをしても、マスク1つでなんだか台無しになることに、強烈な虚しさを感じている人は今少なくないのだろう。
ただマスク生活が始まった頃は、かなり投げやりになっていた人も、最近はそこにも活路を見い出しているのかもしれない。全てのファッションがマスクで壊れてしまうわけではないのだと。なんとなくでもマスクに似合う服があるのだということが次第にわかってきたはずだから。
不謹慎に聞こえるかもしれないけれど、マスクに最もよく入るのは、やはり白衣。医療従事者の制服なわけだが、それもファッションには必ず”なにがしかの必然性”と言うものが必要だから。
そういう法則に照らし合わせても、マスクをつけてこそかっこいいと言う、圧倒的な必然性を持っている服が存在した。フランスのデザイナー、ピエール・カルダンのデザインによる「コスモコールルック」とも呼ばれた宇宙服ファッション。アルミ箔などの未来的な素材や幾何学柄を大胆にあしらった斬新なものだが、信じがたいことにそれは1960年代、半世紀以上前のトレンドなのである。
時はまさに米ソが競って月面着陸に挑んだアポロ計画の時代、宇宙への憧れが頂点に達した頃だった。まさに映画「2001年宇宙の旅」に出てくるような、宇宙船の中で働く女性をヒントにしたファッションは、ちょうどこの時期に大ブレイクした伝説的なモデルのツイギーによく似合いそう。ハイネックのウルトラミニにロングブーツといったコーディネートは、今見ても極めてキュートでクール。なんと小物として今をときめくフェイスシールドがあしらわれていたのである。
これはもちろん宇宙服のヘルメットをイメージしたものだが、目を疑うほど今のフェイスシールドにそっくりなのだ。ちょっとデザインに手を入れれば、そのまま使える。いや使えるどころか、そのファッションはマスクあっての完成度と言うような見事な提案!
なるほどこうすれば、マスクが浮いてしまわないのだとも気づかされた。これ、今こそ着るべき、作るべきではないかと思ったわけだ。
コンサバな服や、エフォートレスでナチュラルな服ほど、マスクが似合わないとは感じていたが、正解は未来にあった。未来形の宇宙服にあったのだ。
ただ、宇宙服にはフェイスシールドとかマスクが必須なんて、考えてみればちょっと皮肉。ウィルスとの戦いがこれからもずっと続いて、宇宙への移住などが現実味を帯びて行ったりするのかもしれないから。つまりこれが、私たちにとっての未来の定番スタイルになるのかもしれないのだ。
そんな未来に思いを馳せつつ、前衛的なデザインで人気を博したピエール・カルダンが、半世紀も前にこの予言的なデザインを発表していたことに、敬意を表したい。そしてこのコスモルック、ぜひとも復活させてほしい。復活を願おう。
文/齋藤薫 さいとう・かおる
美容ジャー ナリスト/エッセイスト。女性誌編集者を経て、多数の連載エッセイを持つほか、 美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中 。近著の『 “ 一生美人 ” 力 』ほか著書多数。Yahoo!ニュース「 個人 」でコラム執筆中 。
イラスト/千海博美 ちかい・ひろみ
イラストレーター。版木に着彩後、彫りを入れる技法で作品を制作 。
広告、書籍装画、テキスタイルなどのイラストレーションを手がけ る。