17 Aug 2020
建築家の長坂常による設計。ディテールや素材へのこだわりがつまった元・青果店「イソップ 青山店」:東京ケンチク物語 vol.15

人々が行き交う表参道の裏手にある、スキンケアブランド〈イソップ〉の日本国内1号店。ディテールや素材へのこだわりをじわじわと発見していく、このブランドらしいショップです。#東京ケンチク物語
イソップ 青山店
Aēsop Aoyama
シンプルで統一感のあるラベルや、ナチュラルで心地よい香りと使用感が、国やジェンダーを超えて多くの人々に信頼されるオーストラリア・メルボルン発のスキンケアブランド〈イソップ〉。その日本で最初の路面店が今回の目的地だ。完成は2010年。長坂常による設計は、当時も大きな話題を呼んだ。最近では「ブルーボトルコーヒー」の各店舗などを手がけている長坂は若手建築家の筆頭格。意外でいて、しかし合理的な素材づかいで知られるが、「イソップ 青山店」でもその手腕が発揮されていた。
ショップがあるのは、表参道から少し脇道に入った、古くからの住人や地元密着型の商店なども点在するエリア。ブランドの新しい本拠地として、〈イソップ〉と長坂がここに見つけ出したのは、築年数の経った元・青果店。更地や、似たような店舗のあった場所にぴかぴかの新しい空間をつくるのではなく、街に溶け込んだ商店の面影を可能な限り残して、新しい場をつくったのだ。
細長いスペースの、風合いの出たコンクリートの壁はほとんど手つかずのままでショップの壁に。同じくコンクリートのフロアは、ところどころにある古いマンホールや水道栓などの蓋を隠すことなく、上から全面をエポキシ樹脂でコーティングして、つるりとした床面を生み出した。加えて長坂は、解体された古い住宅から建具や家具、柱などの材料を入手。これを陳列台やテーブルの脚などに利用している。さらに、エントランスの大きな窓を開放すると、それまで内部にあった背の高いディスプレイ棚が軒下まで飛び出しているように感じるつくりも面白い。ひとつの店のなかに、さまざまな時間軸、そして半屋外と屋内が同居しているのだ。
ここを訪れた人は、まずは〈イソップ〉の製品のえも言われぬ芳香に心を奪われ、それから少し薄暗いこの空間をぐるりと見渡すのだろう。そうして、棚板に使われた古い家具の取っ手や、商品を並べる台にした古材にチョークで記された、かつての製材所の名前といった、興味深い造作の数々にも気づく。控えめだけど、その裏側にはディテールへのこだわりと美意識がきっちりと横たわる。建築物そのもので〈イソップ〉を表現しているのだ。
〈イソップ〉の直営店は、それぞれの土地柄に合わせてまったくインテリアが異なっていることも大きな特徴。日本での各店舗は、長坂のほかにも活躍する若手を積極的に起用し、オーストラリアのチームと対話を重ねながら個性的な店を生み出している。二俣公一(ケース・リアル)、トラフ建築設計事務所、緒方慎一郎(SIMPLICITY)、増田信吾+大坪克亘など、いずれも魅力的な建築家の世界を訪ねるのもたのしい。
イソップ 青山店
住: 東京都渋谷区神宮前4-8-2
Tel: 03-3470-8311
営業時間: 12:00〜20:00
休: 無休
aesop.com
東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅より徒歩5分。
Illustration: Hattaro Shinano Text: Sawako Akune Edit: Kazumi Yamamoto
GINZA2020年8月号掲載