大正時代に建てられ、震災や戦災を生き延びて東京を見守り続ける「東京駅丸の内駅舎」。現在は創建当初の姿に復原。幾つもの歴史とドラマが隠された名建築です。#東京ケンチク物語
赤レンガの名建築。創建時の美しいドームを復元した「東京駅丸の内駅舎」:東京ケンチク物語 vol.17
東京駅丸の内駅舎
Marunouchi Station Building
日々多くの人々が行き交う東京駅。生活の通過点だから、それ自体がどんな場所かを気にすることはあまりないかもしれないけれど、次の機会にはぜひ、皇居に面する丸の内側の駅舎を隅から隅まで眺めてみてほしい。赤レンガ貼りのクラシカルなこの建物は、日本の近代建築の代表作。しかも、60年以上も失われていた完成当初の姿を、知恵と技術を集結させて取り戻した貴重な建造物なのだから。
東京の玄関口であるこちら、完成は1914年。日本の建築家の第一世代で、明治から大正にかけて活躍した辰野金吾の設計だ。全長335m、両サイドにドームを持つ堂々たる駅舎で、基礎には1万本以上(!)の松の大木の杭を打ち込んだ。まさに当時の技術の粋を集めた堅牢なつくりで、関東大震災をほぼ無傷で生き抜くのだが、第二次世界大戦の東京大空襲では大きな損傷を受ける。3階部分が焼失し、大きな特徴ともいえる2つのドームが失われてしまったのだ。戦後になって駅舎自体は復興するが、ドーム部分は丸屋根から簡易な角屋根となって駅舎は2階建てに。以来60年近くそのまま利用されてきたが、2007年から2012年にかけて大がかりな保存・復原工事が行われたというわけだ。
完成当初からの姿を残していた1、2階の外壁は、基本的には〝保存〟。失われた3階部分や南北のドームは、創建時の姿に忠実に〝復原〟。丸の内の中心という一等地にあって、現代的な高層ビルへの〝建て替え〟という商業的・合理的な選択肢ではなく、文化的価値を残すことが選ばれたことには大きな拍手!だけどもこれ、なかなかの大工事だったそう。外壁の赤レンガや屋根材などはテストを幾度も繰り返して創建当初のものに近い材をつくりだし、職人が1枚ずつ手貼り。南北のドームは当時の資料や図面を細かにあたってレリーフひとつに至るまで再現。さらに最新の免震性能を持ったコンクリート製の基礎をつくり、建物の下で松の杭と入れ替えたという。建築家だけでなく、幾度もの工事に関わった職人たちの魂や、この駅を使ってきた人々の思いも受け止める。そして次の100年、200年先までこの建物を守ってみせる……。そんな気迫が伝わってくる。