21 Apr 2023
スタジアムとして異彩を放つ、木を多用した「国立競技場」:東京ケンチク物語 vol.43

固唾をのんで競技を見守った東京2020夏季オリンピック・パラリンピック。メイン会場となった「国立競技場」も、6万席超の大型スタジアムとして注目を集めた。現在の日本でもっともよく知られる建築家の一人、隈研吾が設計に参画している。
国立競技場
JAPAN NATIONAL STADIUM
緑豊かな神宮外苑を抜けた先に現れる5階建て・高さ約47mのスタジアムは、各階から庇が大きく張り出したもの。軒下部分がスギの縦格子で覆われたこの「軒庇」が外縁を一周し、上部には緑も生い茂る。巨大なスタジアムというより、由緒ある社寺を見上げているかのような優しげな外観だ。出合い頭の美しさに「わあっ!」と思わず声がもれるが、客席へと進むと、気持ちはさらに盛り上がる。全天候型トラック9レーンと107×71mの天然芝ピッチによるフィールドがあるのは、地下2階にあたる部分。これを同階から地上5階までの観客席が取り囲む。周辺環境への配慮から、スタジアム全体の高さを極力低くするために、観客席は傾斜の大きいすり鉢状に。この形によってどのフロアからの眺めも迫力満点なのだ。さらに客席をぐるりと覆う大屋根が、スタジアムの印象を決定づける。約60mの幅で張り出して、客席を直射日光から守るこの屋根は、木材と鉄骨を組み合わせたトラスで作られたもの。見上げれば無数の木の面が目に入り、まるで大樹の木陰にいるかのよう。森林の木漏れ日をイメージしてランダムなアースカラーに彩られた客席が、さらにその雰囲気を後押しする。
ファサードの「軒庇」には全国47都道府県から調達したスギやマツが、大屋根にも国産材が使われた。コンクリートや鉄が使われることが大多数のスタジアム建築の中で、木を多用したこの「国立競技場」は異彩を放つ。とはいえ木が、日本の伝統建築の美をなす大きな要素であることを考えれば、“国立”を冠したこのスタジアムが、木を、そして社寺を感じる建築となったことは多いに納得のいくことだ。伝統と現代を巧みに融合した、新時代の日本の建築の顔のひとつになっていくことだろう。
国立競技場
住所: 東京都新宿区霞ケ丘町10-1
TEL: 0570-050800(国立競技場スタジアムツアー事務局ナビダイヤル)
現在はサッカーやラグビー、陸上など各種試合や競技大会に使われている。選手ロッカールームや競技トラックなどまで入ることのできる「国立競技場スタジアムツアー」、VIPラウンジやVIP客席エリアにも入れる「VIPエリア&展望デッキツアー」を開催している。各ツアー実施時間は10:00~17:00(10~3月)、11:00~18:00(4~9月)。開催日や料金はHPで確認を。イラストは全面芝だが通常時は中央の天然芝のみ。
JR千駄ケ谷駅、信濃町駅より徒歩5分。都営地下鉄大江戸線国立競技場駅より徒歩1分、東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩9分。
Illustration: Hattaro Shinano Text: Sawako Akune Edit: Kazumi Yamamoto
GINZA2023年1月号掲載