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ノバレーゼ × 朝倉かすみ 連載短編小説 monologue:my wedding stories 第3回「虹の粒」

ノバレーゼ × 朝倉かすみ 連載短編小説 monologue:my wedding stories 第3回「虹の粒」

作家、朝倉かすみが綴る全7話のウェディングモノローグと〈NOVARESE〉のドレススタイル。自分らしい、自由なブライダルを叶える、連載ストーリー第3回。


第3回
「虹の粒」

 おまえが花嫁になった日、わたしは少し寝坊した。いや、起きてはいたんだ。母さんが隣でむっくり起きて、目覚まし時計を止めたのも知っていた。そう、あの目覚まし時計だ。おまえが社会人二年目でひとり暮らしを始めるときに置いていったウサギのやつ。母さん情報では、十七だったか十八だったかの誕生日にボーイフレンドからもらったというアレだ。

「お父さぁん、そろそろ起きないと、お父さぁん」

 母さんが台所から張り切り声で呼んだとき、わたしはおまえの部屋にいた。紺色のカーテンを閉めたおまえの部屋は、海中のように薄青く、その中で、わたしはしわくちゃの寝巻きを着たまま、ぼんやりしていた。二日酔いだったということもある。前の晩、北海道から保がやって来た。出前の干瓢巻きとお持たせの北海珍味をつまみに、母さんを交え、大いに盛り上がった。

「兄さん」

 保が呼びかけた。ハイボールを一口飲んで、グラスをテーブルにそっと置いた。母さんはいなかった。深夜零時をまわる前、寝室に立った。

「船乗りさん家、覚えってっか?」

 わたしと保が幼かったころ、隣に船乗りの一家が住んでいた。三人家族だったが、普段は奥さんと年頃の娘さんのふたり暮らしだった。真っ黒巻き毛の垂れ耳の犬がふたりを守っていた。そんなに大きな犬ではなかった。回覧板を持って行きついでに上がりこみ、お茶とお菓子をいただきながら珍しい海外の人形などを触らせてもらうわたしたち兄弟を、ソファの陰から銅色の目で見張っていた。わたしたちのどちらかが大声を出したり、不審な動きをしたりすると、低く唸り、攻めかかる姿勢を取ったものだ。

 娘さんは花嫁支度を自宅でおこなったのだった。わたしたち兄弟は朝から見物させてもらった。もちろん、その日はご主人もいた。モーニングを着込み、テレビの『トムとジェリー』に目をやりながら犬の頭をなでていた。「なにもこんな日にマンガなんか観なくても」とか「犬の毛がつく」と集まった皆にからかわれたり注意されたりしていた。ご主人と犬は同様に眠たげだった。ソファの上と下とでゆっくりとまばたきをしていた。

 わたしは窓辺に寄り、紺色のカーテンを開けようとした。カーテンレールに吊り下げられた透明な物体に気づいた。ペンダントに似ていた。細いワイヤーの先で多面体のガラス玉が重たげに揺れていた。すぐに思い出した。船乗りのご主人からもらったお土産で、もう遠い昔、チョーダイったらチョーダイとおまえにせがまれ譲ったものだ。

 カーテンを開けたらいっぱいに日差しが入った。ガラス玉を通過し、おまえの部屋にシャボン玉みたいな虹の粒が飛び散った。ちょっとくすんだ白い壁、上物を取り去った学習机、作りつけの低いベッドと観音開きのクローゼット。そこらじゅうに降るように映り、オトさんオトさんとまわらぬ舌のおまえの声でささめいた。

 その後わたしはモーニングに着替えた。時間までテレビを観て、母さんをやきもきさせ、保を大いに笑わせたことだった。

朝倉かすみ あさくら・かすみ

作家。1960年北海道生まれ。デビュー作は『コマドリさんのこと』(2003年)。『田村はまだか』『満潮』など数々の人気作を手がける。昨年、『平場の月』で山本周五郎賞を受賞。近況は「あまりにも映画を観てこなかった自分を憂いて古い映画を観始めました。『サイコ』とか『ギルバート・グレイプ』とか『シャイニング』とか」と朝倉さん。


ノバレーゼのドレス

淡い光に包み込まれる
エンパイアドレス

風を孕み、流れるように静かにトレーンが広がるエンパイアシルエットのドレス。

「ドレープの落ち感が美しいシルクジョーゼットから光が柔らかく透過して、すりガラス越しのような優しい輝きに包まれます。古代ギリシャ・ローマ時代に遡る締め付けのないほっそりとしたスタイルは、帝政ナポレオン期にリバイバル、ナポレオンの妻ジョセフィーヌが好んで着用したことから“エンパイアライン”という名称で親しまれてきました。胸下からの切り替えのため小柄の女性でもバランスよく着こなせ、女性らしい雰囲気が愛されています」とディレクターの城昌子さん。

胸元にはリボンに抱かれた大小のパールを刺繍、海の女神を思わせるドレスは〈テンパリー ロンドン〉とコラボレートしたエクスクルーシブラインから。ブランドの豊富なアーカイブをベースに、シルエットやディテールなど時代に合わせたチューニングをして特別に作られている。

「田舎で生まれ育ったというデザイナーのアリス・テンパリーは、ラグジュアリーなドレスでも裸足で着こなしてしまう自然体な魅力を持つ女性なんです。牧歌的なテイストが特徴で、肩肘はらない自由なボヘミアンスタイル。ヘアスタイルやメイクアップも飾りすぎることなく、ナチュラルな美しさを楽しんでもらいたい1着です。そもそも結婚式は、家族や友人たちから尽きることのない無償の愛が注がれる日。これみよがしなドレスアップをせずとも、溢れる愛情が花嫁を何より綺麗に彩ります。その包まれるような光を味方に、自分らしく輝くウエディングに出合ってもらえたらと思います」

ドレス¥720,000*購入価格、¥320,000*レンタル価格(テンパリー・フォー・ノバレーゼ)、イヤリング¥50,000*購入価格、¥12,000*レンタル価格(エリクソン・ビーモン)、エンゲージリング¥217,800〜、マリッジリング¥176,000〜(共にノバレーゼ プリマ|以上ノバレーゼ銀座)

城 昌子 しろ・まさこ

〈ノバレーゼ〉ブランドディレクター。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ美術学校卒、プレタポルテのデザイナーなどを経て現職。ドレスやテキスタイルのデザイン、バイイングにスタイリング、ブランドのディレクションを行う。

問い合わせ

ノバレーゼ公式サイト

ノバレーゼ銀座
Tel. 03-5524-1117

Photo:(landscape)Yuka Uesawa Text&Edit: Aiko Ishii

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