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放送作家 白武ときおさんに聞いた、お笑いに愛される人気者の法則

放送作家 白武ときおさんに聞いた、お笑いに愛される人気者の法則

YouTube、テレビ、広告などジャンルを超えて活動する放送作家・白武ときおさん。霜降り明星やAマッソ、かが屋など、歩みをともにしてきた芸人は、もれなくスターになっている。そんなエンタメ業界の超目利き役に、今の時代の流行の在り方、そして彼を惹きつけてやまない人気者たちの共通点を尋ねてみた。

【生物学、マーケティング、エンタメ視点で分析!特集 #流行と人気の正体 より】


たゆまぬ「次の一手」がハートをつかむ

「お笑い好きの放送作家として僕が一緒に仕事をしたいと思うのは、ある一点だけでも突き抜けた面白さを持ちあわせている人たちです。それがまだ世間に伝わりきっていない状態で、これからシンデレラストーリーを見せてくれそうな人にワクワクします。そういった存在の共通点としては、自分を取り巻く環境に怒りを感じていたり、皆なんらかの“過剰さ”を持っているところかもしれません。たとえば『雷獣』という灘中・灘高の卒業生たちがやっているYouTubeチャンネルがありますが、彼らには抜群の知性とそれを面白く伝えられる絶品のトーク力がある。そのかけ算が異常値となって、視聴者の心を惹きつけます。僕の仕事仲間だと、かが屋の加賀くんもそう。コントのシチュエーションを毎月1​0​0個も考えるという、過剰さを持ち合わせています。『この人、なんだかすごすぎるぞ』という引っかかりがカギになり、身近なスタッフから多くのファンまで、夢中にさせる魅力がある気がします」

そんな人気者たちが日々対峙するのは、一過性のブームではなくスタンダードになれるかどうかの勝負だ。 「賞レースで活躍して、直後にテレビの第一線に放り込まれた芸人を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。彼らはスケジュールに忙殺された状態で、朝から夜までいろいろな番組に出なければならない。一周目の顔見せで消費され、出がらしになってしまうのか、それとも毎回マルチに己の違う面白さを発揮できるのか。そういった場面では、常に話題を作り続けて、自分というタレントを世間に飽きさせない力が必要なんだと思います。一番の例になるのが、ダウンタウンの松本人志さん。漫才やコントで一級品の芸を披露したのち、フリップ大喜利そのものや『ドキュメンタル』というお笑いの新しい“ハード”を次々と開発して現在も視聴者を楽しませています」

タコツボ化する世界の“真の人気者” 

コンテンツ量が膨大になるにつれ、テレビの“正伝”神話は影響力を弱め、国民全体の共通言語となり得るお祭りは1年でも数えるほどに。ブームをひとつに定めるのが難しくなった時代に、エンタメを享受する側には何が起こったか。 「みんなの“好き”がタコツボ化するようになったんです。それぞれのコンテンツには熱心なファンがいて、嗜好が細かく分かれていますが、みんなよそのムーブメントはあまり見えていない。VTuberひとつとっても、どのジャンルを好きになるかによって際限なく分岐していくし、自分の推しのことしか知らない人もいる。そんな“好き”が散らばる時代で生き残っていくためには、適したプラットフォームに自分をはめ込み、最大限の手腕や独自性を発揮することが重要だと思います。そうすれば、世の中に浅く広い“好き”が生み出され続けても、そういったものとは真逆にある、高温の熱を生み出せるかもしれない。YouTubeチャンネルの登録者数100万人と比べると、芸人の単独ライヴに来る観客1万人は少なく感じるかもしれませんが、チケットを買って、わざわざ下北沢の会場まで足を運ぶファンがいるというのは、相当強いことだと思いますよ」

もちろん一点突破型ではなく、ジャンルを越境するタレントたちもいる。テレビで活躍していた中田敦彦がYouTube大学を始め、動画界で覇権を握り、渡辺直美は日本だけでなく世界で活躍するトップクリエイターになった。規定の枠組みを超えていくのは難しいが、そのぶん超えられる人は重宝される。自らをツボの中に閉じ込めずプラットホームを往来できる人間が、現代における人気者の定義なのかもしれない。

芸人のYouTubeマラソン 

コロナ禍をきっかけに爆発的に数を増やしたお笑いYouTubeチャンネルは、今もその勢いを落とさず、ファンを増やし続けている。江頭2:50、カジサックは変わらずトップを走り続け、かまいたち、チョコレートプラネットらも視聴者を飽きさせず、充実した企画をスピード感を持って連発。ノンバーバルな芸を武器に闘うウエスPのような存在や、狩野英孝のようにゲーム実況でヒットを飛ばす者もいる。

「特に最近注目しているのは、さらば青春の光さんと、きしたかのさんです。毎回企画をチーム全体で面白くしようという気合が感じられるし、芸人のYouTubeとして理想的だなと思いますね。特にきしたかのさんのチャンネル『高野さんを怒らせたい。』は、無名芸人が企画と演者の力だけで大きな話題を呼び寄せたという点で、新たなブレイク法を発明した。それぞれが自分のスタイルを確立して、影響力を拡大しながら走り続けていますね」

世はまさに“大タコツボ”時代。ハマるか行き来するか、どっちを選ぶ?

しらたけ・ときお

1990年京都府生まれの放送作家。『しもふりチューブ』『ざっくりYouTube』(共にYouTube)、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)など多数の番組を担当している。

Illustration_KAWADAHO Text_Oly Tohki

GINZA2022年4月号掲載

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