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松田聖子の80年代伝説Vol.9 トロピカルブルーの向こうに夢が広がる7thアルバム『ユートピア』

松田聖子の80年代伝説Vol.9  トロピカルブルーの向こうに夢が広がる7thアルバム『ユートピア』

昭和から令和へと変わってもトップアイドルとして輝き続ける松田聖子さん。カセットテープ1本から彼女を発見し育てた名プロデューサー・若松宗雄さんが、24曲連続チャート1位という輝かしい伝説を残した松田聖子さんのシングルと名作アルバムを語る連載。80年代カルチャーで育ったライター・水原空気がインタビューします。

第9回目は、未来への前向きな夢が溢れる7thアルバム『ユートピア』について。前回の記事乙女心がおしゃれなWジャケットにギュッと詰まった6thアルバム『Candy』も合わせてチェック。


ライター水原(以下M) 今回は1983年6月1日発売されたアルバム『ユートピア』について伺っていきます。ユートピアというタイトル、本当に素敵です。

若松さん(以下W) これは当時の業界がせせこましくてね。あれこれダメ出ししてくる人がいたり、会議で売れないと好き勝手言われたり。私自身がその頃ユートピアに行きたかったので(笑)。

M えーー!そうだったんですか!?それだけ聖子さんが大きなプロジェクトになっていたんでしょうね。

W もろちん本当は、聴いてくださるみなさんが毎日の大変なことを忘れて、ユートピアにいるような気分になってくださったらという思いからです。

M そのメッセージ、約40年過ぎた今でも毎日いろんな人に届いていると思いますよ。

W ありがとうございます!このジャケットは西新宿の高層ビルのプールで撮影したんですよ。

M 表情とか手の形とか本当に神がかっていて大好きです。夜明けの海のような色も。

W 水はユートピアとか南の海をイメージして。でも具体的な状況にはせず。カラーリングはデザイナーの山田充さんのアイデアでした。写真はたくさん撮影した中から私がパッと閃いてこのカットを選んだわけですが。自然で着飾っていない素の状態がやはりメッセージも強くなります。歌も着飾るとダメ。歌いこむのではなく自然でないと。

M アイコニックなビジュアルは現在の音楽配信でも目立っています。そして1曲目の『ピーチシャーベット』について。今でも”ピーチシャーベット”で画像検索すると真っ先に聖子さんが上がってきますが、なかなか本物のシャーベットがなく。ピーチシャーベットは当時実在したんですか?

W 松本隆さんのことだから小説か何かで知ってたのかなぁ。

M その、ありそうでなかなかない、行けそうで行けない感じがどうしようもなくユートピアでした。

W そうでしたか(笑)。この曲は杉真理さん作曲でアレンジは瀬尾一三(いちぞう)さん。瀬尾さんは私が吉田拓郎さんのファンで、瀬尾さんのアレンジを聴いてずっとお仕事をしたかった方なのですが。最初にリズムパートを録るときにおもしろくてね。ドラムやベースの方に「いいか、行くぞ、今日はいつもの小汚い連中の歌じゃないからなぁ、品良くやってくれよ」と(笑)。ロックスピリットの方ですから。

M そのビート感がこのアルバムをおもしろくしています。甲斐バンドの甲斐祥弘さんも『ハートをRock』と『赤い靴のバレリーナ』を提供されました。

W 甲斐さんの『安奈』も私が大好きだったので。こうしてみると『ユートピア』と『SQUALL』は自分の中でも一番好きなアルバムですね。とにかくポップでフレッシュ。人はフレッシュなものに惹かれますから。

M 「ときにはバッハもいいけど」とか「前髪1mm切りすぎた午後」など、松本さんの詞も鳥肌が立つほど秀逸。この頃からより主体性のある女の子が登場して、少しずつ歌の主人公も成長していきます。

W その辺はもう松本さんにお任せしていました。私は、ずっとみなさんに愛されるような息の長い歌手にしてほしいとお願いしていたので。

 

希望溢れる夜明けの色。
歌詞や歌声の向こうには夢が。

M 4曲目の『小さなラブソング』では、聖子さんが初めて詞を書かれていますね。

W 当時私が「詞や曲を書いてみたら?」とアドバイスしていたんです。聖子をクリエイティブな部分にも参加させてあげたかったし、そういう経験はアーティストとしてプラスになるので。

M クリエイターとしての聖子さんの原点ですね。ところで『マイアミ午前5時』と『セイシェルの夕陽』は、聖子さん本人も忘れられないレコーディングとして語っていらっしゃいます。夜中に疲れて歌入れしているときに、若松さんに「全然セイシェルやマイアミじゃない!」と抜け感のなさを指摘されて。聖子さんも煮詰まってしまい、だったら若松さんが歌ってみてくださいと言ってしまったと。

W そんなこともありましたね。「俺は歌手じゃないから歌えない」と答えたのかな。今考えたらあの頃のスケジュールはハンパなかったし、疲れて調子が出ないときがあったのは当然。自分としても当時少し厳しく接しすぎた部分もあるんです。でもね、どんなにスターになっても私は初めて聖子に会った頃と接し方を変えなかった。呼び方も「聖子」のまま。東京に呼んだのも私だし、いろんな人がちやほやと近寄ってくる芸能界にあって、ちゃんと近くにそういう人がいることがとても大切だと考えていたので。

M 結果的にはそのレコーディングはうまくいって、今やこの2曲はコンサートのハイライトに。しかしそのやり取りも信頼関係があるからこそですね。

W 聖子が高校生の頃から知ってますから。でもレコーディングはいつも和やかで楽しい思い出ばかりなんですよ。明るくて人に気を使わせない子なので。

 

ヘアメイクも歌もおしゃれに!
聖子ワールドがますます進化。

M 『秘密の花園』はどんなふうに松任谷由実さんにオファーされたのですか?

W 2月発売ですから、春の爽やかなイメージで。この曲も後半を少しだけユーミンに直してもらいましたが、すぐに快く調整してくださいました。

M 聖子さんがこの曲からストレートパーマをかけたのがまた新鮮で。続く『天国のキッス』は若松さんのYouTubeでも最大の問題作であり傑作であると話題に上がっていましたね。

W まさに細野晴臣さんの世界。転調を多用した難曲でしたから。でも思った以上に聖子は細野さんのテクノポップを消化して、自分のものにしていました。B面の『わがままな片思い』も、もう聖子にしか歌えない世界になっていますよね。

M 『天国のキッス』で忘れられないのは『ザ・ベストテン』。映画の主題歌だったので完成披露パーティからの中継だったのですが、歌いながらいくつも宴会テーブルを回って俳優の方や監督にニコリと挨拶したり腕を組んだり。しかも歌詞も音程も気配りも完璧!

W 本当に天才なんです。歌手はどんなに歌が上手くてもタレント性がないとダメだからね。

M アルバムラストの『メディテーション』。この曲もいい歌です。

W 作曲の上田知華さんは五輪真弓さんと同じ事務所で紹介がありまして。よく覚えているのは、当時私も毎日遅くまで仕事で深夜に帰宅していたのですが。たまたま上田さんの家が近所で、朝起きてポストを見に行ったら出来立てのデモテープが入っていたんです。それからすぐに大村雅朗さんにアレンジしてもらって。もう曲を聴いた時点でいい仕上がりになると思っていました。それくらい土台がしっかりした旋律でしたから。

M 上田さんの起用も早かったです。

W 他の方からも売り込みはたくさんあったけれど、聖子に合わせすぎた曲は却下していましたね。やはり新しいことをしたいという気概がないとね。

M 毎回アルバムが出るたびに今度はどんな人とコラボしているのだろうと楽しみでした。ちなみに『マイアミ午前5時』は当初鎌倉が舞台だったというのは都市伝説ですか?

W いくつかのインタビューで証言があるようですが、私が知っているのはマイアミなんです。

M 松本さんなりの試行錯誤だったのでしょうか? あれ以来鎌倉でもハワイでも、海辺の三叉路に立つと必ずマイアミってこんな感じなのかな?と(笑)。

W 松本さんの詞は想像力をかき立てるからね。私も当時マイアミやセイシェルには行ったことはなかったけど、松本さんから聞いてイメージを思い浮かべていたんですよ。

M 80年代から海外旅行に日本人が行き始めたのは、決して円高だけでなく聖子さんの歌が背中を押したからだと思うのです。

W そういう影響、あったかもしれません。ブルージュやカアナパリなど、いろんな地名が他のアルバムにも登場していますからね。

M ポップで素敵な外国のイメージは、まさにユートピアでした。

W だとしたら、嬉しいですね。

M 次回は伝説のアーティストと聖子さんについて若松さんが語る特別番外編です! お楽しみに。

松田聖子の80年代伝説|レコード|ジャケット

Profile

若松宗雄/音楽プロデューサー わかまつ・むねお

一本のテープを頼りに松田聖子を発掘。芸能界デビューを頑なに反対する父親を約2年かけて説得。1980年4月1日に松田聖子をシングル『裸足の季節』でデビューさせ80年代の伝説的な活躍を支えた。レコード会社CBSソニーではキャンディーズ、松田聖子、PUFFY等を手がけ、その後ソニーミュージックアーティスツの社長、会長を経て、現在はエスプロレコーズの代表に。Twitter@waka_mune322、YouTube「若松宗雄チャンネル」も人気。

Text: Kuki Mizuhara Photo: Hiromi Kurokawa

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