SEARCH GINZA ID

松田聖子の80年代伝説Vol.11 大人のシティポップへと急激に洗練された8thアルバム『Canary』

松田聖子の80年代伝説Vol.11 大人のシティポップへと急激に洗練された8thアルバム『Canary』

昭和から令和へと変わってもトップアイドルとして輝き続ける松田聖子さん。カセットテープ1本から彼女を発見し育てた名プロデューサー・若松宗雄さんが、24曲連続チャート1位という輝かしい伝説を残した松田聖子さんのシングルと名作アルバムを語る連載。80年代カルチャーで育ったライター・水原空気がインタビューします。第11回目は聖子さん自身が初めて作曲でも参加したシティポップの名作『Canary』について。

前回の、両A面で共に1位に輝いた『ガラスの林檎』と『SWEET MEMORIES』も合わせてチェック。


ライター水原(以下M) 今回は8枚目のアルバム『Canary』のお話をぜひ!

若松さん(以下W) はい。発売は10月でしたか?

M いえ若松さん、12月です。

W そうかー。もっと早い季節だと思ってました。この頃は1年中レコーディングしてたからね。ちなみに録音はいつとクレジットされていますか?

M 10月から11月ですね。

そんなギリギリに!? 自分で驚いてちゃいけませんが、12月の発売であれば本来は11月にレコーディングなんかしていたらアウトですね。とにかく聖子が忙しかったから特別に許されていた進行でした。

M 本来は?

W 8〜9月でないと怒られます、会社から(笑)。

M 若松さんのYouTubeでは『JEWELS』という仮タイトルが先に出た件が話題になっていましたが。

W 自分では全く覚えてないんだよね。もしかしたら会議で販売部からタイトルを聞かれてつぶやいたのが一人歩きしたのかな。会社も早くオーダーを取らないといけませんから。

M それくらい日程がタイトだったんですね。『JEWELS』の予約告知ポスター、実は私も覚えてます。あと録音日がアルバムにクレジットされていたのはアイドルでは聖子さんくらい。「自分たちが部活がんばってた頃に録ったんだぁ~」などと妄想できてファンには大切な情報でした。このアルバムから曲が全体に大人っぽく変わった印象です。

W 聖子も21歳になってましたからね。自立した女性像が歌詞にも描かれています。

M 前作までは同じ海外でも「旅行」でしたが『Wing』では「一人暮らし」していたり。

W その辺は松本隆さんのバランス感覚ですよね。でも学園モノの歌もある。

M 『Private School』の歌詞もかわいいです。先生への片思いで、作曲は林哲司さんでした。

W 林さんはその後人気作曲家になられましたが、マネージャーさんから売り込みがあって、そのときの曲から何曲か採用させていただきました。

M 林哲司さんと言えば、松原みきさんの『真夜中のドア』がいまやシティポップの定番。

いまネットで大ヒットしていますよね。いい曲は時代も国も超える。松原さんのプロデューサーだった菊地哲榮さんはよく存じ上げていますが、大変な優れ者でね。覚悟が決まってるし足腰が強く頭もいい。ヒットは必然だったと思います。しかし、いい曲は何度でもスポットが当たりますね。

松原みき『真夜中のドア~Stay With Me』1979年11月5日発売。80年代の幕開けを飾るヒットとなった。2020年12月にインドネシアのYoutuber、Rainychがカバー。Spotifyグローバルバイラルチャート15日連続世界1位を記録。また韓国のDJアーティストNight Tempoもリミックスを発表。40年のときを超えオリジナルも世界的に大ヒット中。作曲林哲司、作詞は『青い珊瑚礁』や『夏の扉』も手がけた三浦徳子!

M 『Canary』は全体にアレンジもおしゃれに進化していました。来生たかおさん作曲の『Silverly Moonlight』もリズムボックスを使った洋楽的なアレンジでシンプルなのに強さがある。

W 大村雅朗さんがいつも最新のサウンドを作ってくださっていたので。自分は感覚的に時代の中で心地良い方を選んだり話し合ったりという感じでした。それが後にシティポップと呼ばれるようなサウンドとなるとは特に意識はしていませんでした。

M 井上鑑さんの作曲アレンジの『Misty』もコーラスのリフレインが心地いい。

W 井上さんは昔からお仕事をしたかった方。井上さんの力もお借りしたので自然と大人っぽい世界になったのかもしれません。

M 『Party’s Queen』はスローでジャジーな曲ですが、詞が7行しかないと松本隆さんがインタビューで。

W 曲先だとそういうことが起きるよね。でも短いのに行間のストーリーが浮かんで逆に想像をかき立てられる。それも松本さんならではですね。

M 歌詞カードを見ると例えば『瞳はダイアモンド』が『Diamond Eyes』と表記され、全曲英字タイトルでクレジット。聖子さんが作曲した『Canary』の英語コーラスもわざわざ歌詞が書き起こしてあります。

W これも自分ではなく、多分松本隆さんのアイデア。

M 当時のレコ評で、英語詞の『SWEET MEMORIES』の大ヒット中にレコーディングされたので、その気分を受けたのか? という分析がありました。

W そうだったかもしれません。

 

生きていく苦悩も初めて描いた
聖子POPの金字塔

1983年10月28日発売。ダイアモンドのアはヤではなく「長調的な響きが聖子っぽい」と若松さんがあえて「ア」に。B面『蒼いフォトグラフ』はテレビドラマ『青が散る』の主題歌。「B面だけ集めてベストアルバムを出せたのは、それくらいどの曲もクオリティが高かったから」。

M 『蒼いフォトグラフ』はシングル『瞳はダイアモンド』のB面ですが、今もファンに人気が高い曲です。

W いい歌ですよね。私も大好きです。テレビの主題歌で、宮本輝さんの青春小説を映像化したドラマでね。

M 歌詞に「みんな重い見えない荷物、肩の上に」という言葉が登場し、聖子さんの歌に若さの苦悩が描かれて歌単独でも映画のようなストーリー性を感じました。

W でしたね。詞も曲もアレンジも実にいい。歌の主人公が少しずつ成長していく感じも。

M 『瞳はダイアモンド』はシングル初の失恋ソングでした。♪愛してたって言わないで〜という部分は、Aメロの一部なんですよね。

W 松任谷正隆さんとユーミンならではの展開ですよね。なかなかないよね。

M サビのしゃくる部分はもしかしたら、それを見越して作られたのかと思うほど構成にピタリとハマっています。

W いやいや。聖子も直感人間だからそんなに考えたり分析しながら歌ってはいないんですよ。もちろん歌詞カードに自分だけにわかるメモはしていましたが、あれは計算じゃなく、もっと本能的。ポップスは計算や分析してちゃダメ。娯楽だから感覚が何より大事だから。私は「あさはか」という言葉が大好きでね。

M あさはか!??!?

W そう。本当にあさはかな考えで何でもやってちゃダメだけど。直感を大事に、面白いほう、楽しいほう、気持ちいいほうを選ぶ。すると、だいたいなんでもうまくいくんです。深く考えてちゃダメ。

M 直感が大切なんですね!ブルース・リーも「Don’t think,Feel」と言ってましたからね。では図々しくあさはかな質問を思い切って。このアルバムは聖子さんの作品の中でも一番シティポップ的なクールさがあり、もしかしてその先に山下達郎さんとの組み合わせもあったんじゃないかと思ってしまうのですが。

W 達郎さんも優れた方ですからね。でも私がいつもアーティストの方に細かい曲の調整をお願いしていたので、申し訳ない気がしてオファーできなかったのが本音です。例えば大滝詠一さんも直してくださらなかったけど、松本隆さんとはっぴいえんどをやっていた信頼関係があったから思い切って任せられた。ユーミンも細野晴臣さんも財津和夫さんも、みなさん私が納得がいくまで直してくださいましたから。

M では竹内まりやさんにオファーするというアイデアは?

W 既にユーミンにお願いしていたので、まりやさんにも頼むと、どちらにも申し訳がたたなくなりますから。

なるほどです。聖子さんが作曲した『Canary』も素敵です。

これは私が歌手としての幅が広がるから、鼻歌でも譜面でもいいから作曲してみたら?と言って。タイトルは私が付けてアルバムタイトルにもしました。

M その後、聖子さん作曲で『時間旅行』などの名曲も生まれました。

W でもね。誰でもプロデュースまで全部一人でやるのは大変です。一人だと自分が好きなメロディや歌いやすい曲調に流れて客観性がどんどんなくなる。その結果、聞き手はワンパターンに飽きて離れていく。これは何でもそう。会社もあえて少し苦手な部署に行くとその人が輝いたりするでしょう。いい上司や同僚がいて初めて自分の能力が発揮できますから。ソロアーティストも、実はアレンジャーやプロデューサーなど厳しいパートナーがいますからね。

M 確かにマドンナもユーミンも、プロデューサーの存在があって輝き続けています。ビートルズでさえフィル・スペクターと組んで世界が広がりましたよね。最後に、このジャケットはカナリアを意識していますか?

W (笑)してないよー。カメラマンにはもしかしたら意図があったのかな。

M 少しだけ見える服がカラフルでリップも唇より小さく塗ってあり、そこはかとない小鳥感があります。

W 確かに。でも私が位置を決めてトリミングしちゃってるから。

M この写真は表裏同じですか?

W いや違います。裏には微妙な憂いがある、瞳の奥にね。何百カットからこれだと思う1枚を私が選んでますから。

そうなんですね! 憂いかぁ…それがアルバムの内容とちゃんとリンクしていますね。今日ウチに帰ってじっくり確認してみます。今回もありがとうございました。次回は燃えるような赤いジャケットの『Tinker Bell』について。お楽しみに。

Profile

若松宗雄/音楽プロデューサー わかまつ・むねお

一本のテープを頼りに松田聖子を発掘。芸能界デビューを頑なに反対する父親を約2年かけて説得。1980年4月1日に松田聖子をシングル『裸足の季節』でデビューさせ80年代の伝説的な活躍を支えた。レコード会社CBSソニーではキャンディーズ、松田聖子、PUFFY等を手がけ、その後ソニーミュージックアーティスツの社長、会長を経て、現在はエスプロレコーズの代表に。Twitter@waka_mune322、YouTube「若松宗雄チャンネル」も人気。

Text: Kuki Mizuhara Photo: Miyu Yasuda

#Share it!

#Share it!

FOLLOW US

GINZA公式アカウント

PICK UP

MAGAZINE

2021年7月号
2021年6月10日発売

GINZA2021年7月号

No.289 / 2021年6月10日発売 / 予価860円(税込み)

This Issue:
クリエイターたちの住居
夏のお部屋訪問

すてきなお部屋41軒
夏の家庭訪問です!

...続きを読む

BUY NOW

今すぐネットで購入

MAGAZINE HOUSE amazon

1年間定期購読
(17% OFF)