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松田聖子の80年代伝説Vol.12 永遠に歳を取らない理由が隠された9thアルバム『Tinker Bell』。

松田聖子の80年代伝説Vol.12 永遠に歳を取らない理由が隠された9thアルバム『Tinker Bell』。

昭和から令和へと変わってもトップアイドルとして輝き続ける松田聖子さん。カセットテープ1本から彼女を発見し育てた名プロデューサー・若松宗雄さんが、24曲連続チャート1位という輝かしい伝説を残した松田聖子さんのシングルと名作アルバムを語る連載。80年代カルチャーで育ったライター・水原空気がインタビューします。第12回目は童話やSFをモチーフにしたファンタジックな9thアルバム『Tinker Bell』について。

前回の、大人のシティポップへと急激に洗練された8thアルバム『Canary』も合わせてチェック。


ライター水原(以下M) 『Tinker Bell』は、帯に「四次元の光に輝き 聖子、神秘的」とあるのが印象的でした。

若松さん(以下W) このアルバムは、シングルの『時間の国のアリス』を軸にしてコンセプトを作っていったので、ファンタジーがテーマなんです。これには前日譚がありまして、私のYouTubeでもお話ししましたが、少し前の1981年ごろ“ディズニー・ガール”というテーマで曲が作れないかと思い、当時工事を始めたばかりの東京ディズニーランドへ相談におじゃましたことがあるんです。

M へぇーそんなことが!? 聖子さん自身、デビューのきっかけになったオーディションを受けたのは、優勝したらアメリカのディズニーランドに行くことができたからとコメントされていますが。

W 聖子も好きでしたからね。でも権利的な問題もあって曲にするのはあきらめたんですよ。

M 1984年頃、松本隆さんは南佳孝さんのアルバム『冒険王』をプロデュースしたり、スピルバーグが好きでSFがマイブームだったそうです。

W なるほど。それでこの時期、松本さんと私のタイミングが合ったのかもしれません。今度は聖子オリジナルのファンタジーワールドを描こうという話になり。そういえば作曲してくれたユーミンが『時間の国のアリス』の歌詞を初めて見たとき、「松本さんはきっとfairy girlという言葉を使うんじゃないかと思ってました」と言ってたなあ。

M ユーミンさんも70年代から松本さんと交流があるから、わかる部分があったんでしょうね。ところで『時間の国のアリス』はいつもの松任谷正隆さんではなく大村雅朗さんのアレンジですが、これはどうして? 1984年の正隆さんは新人アーティストの麗美さんのアルバムを2枚プロデュースしたり超多忙だった頃ですが…

W 麗美ちゃん、やってたねー。正隆さんは確かにお忙しかったと思います。ただ、私も絶えず冒険をしたかったので、この曲は大村さんにお願いしたんですよ。

M 大村さんは昔からユーミンさんの大ファンで、今度初めて聖子さんのシングルで組めると喜んでいらっしゃったそうですね。

W そうそう。おかげでポップな新しさが出ました。

M 『時間の国のアリス』はコンサートで今もすごく盛り上がる曲です。松原正樹さんが演奏したギターのフレーズが再現されると80年代へ時計が逆回転して、まさに「時間の国」へ。聖子さんが、私の歌の主人公は永遠に歳を取らないと最近インタビューでおっしゃってましたが。

W 大村さんは詞の世界を大切にする人でしたからね。サウンドもそこまで見越していたのかも。それにしても、聖子のアルバムには本当に一流のミュージシャンが参加してくださった(歌詞カードのクレジットを眺めながら)。松原さんやドラムスの林立夫さん、サキソフォンのジェイク・コンセプションさん、それから…

M みなさん松任谷由実さんや大滝詠一さんのアルバムにも参加されていますよね。

W だから聖子のアルバムは当時ニューミュージックと呼ばれたシンガーソングライターの作品にも引けを取らない。私もシングルはよく手直しをお願いしていましたが、アルバムの細かい部分はアレンジャーやミュージシャンに意見することがほとんどなかったので、まさにみなさんのアイデアがそのまま詰まっているんです。

M ミュージシャンが作ったフレーズが採用されることも、よくあったんですか?

W もちろん。アドリブはライブ感がありますからね。

 

ギターのリフレインは
タイムマシンのイグニッション。

『時間の国のアリス』1984年5月10日発売。作詞・松本隆、作曲・呉田軽穂、編曲・大村雅朗は、シングルでは一度きりのスペシャルな組み合わせ。松原正樹のギターが松田聖子のヴォーカルと絡む、実はロックなサウンド構成。B面『夏服のイヴ』は同年7月公開の聖子さん主演映画の主題歌。作曲にジャズミュージシャンの日野皓正を起用。哀愁を帯びたトランペットが南半球の夕陽を想起させ、ストーリーを盛り上げた。 後に両A面バージョンのジャケット違いも発売に。

M 『時間の国のアリス』は歌詞も独特です。大人になりたくないと言いつつ、オデコではなく唇にキスしようとする矛盾。

W 松本さんは天才だよね。童話の世界に揺れ動く若者の心理を投影して。

M ティンカー・ベルは、『ピーター・パン』に登場する妖精の名前ですよね?

W そう。歌詞には登場しませんがファンタジーの象徴ですね。

M 真っ赤なジャケット写真もおしゃれです。林哲司さんが作曲した『真っ赤なロードスター』のイメージでしょうか? 裏には赤いピラミッドが。

W この時期になると、私はアルバムのコンセプトを短い言葉で説明するだけで、アートディレクターとフォトグラファー、スタイリストが一緒に考えて、歌詞やサウンドからビジュアルイメージを作ってくれていました。ミュージシャンもそうですが、日本のトップクリエイターが聖子に才能を持ち寄ってくれている感じでしたから。

M みなさん、聖子さんが来る日まで徹夜で準備していたこともあったと。

W クリエイターもスタッフも本気で聖子に関わってくれて、いつも助けられました。だから聖子の作品はサウンドも詞もビジュアルも色褪せないし、歳を取らないんです。

M 聖子さんはこの時期カーリーヘアに挑戦していて。アリスの時はストレートのハーフアップで。

W ヘアスタイルも聖子のこだわりがすごかった。全部自分自身で決めていましたから。ジャケット写真は最後に私が選ぶわけですけど、少々ブレててもメッセージが強いほうを選ぶ。シングルの『チェリーブラッサム』のジャケットなんて、白くフワッとしているのをあえて選んでいるので。聖子が冗談でよく「私が見えない〜」って言ってたけど(笑)。

M 『Tinker Bell』のジャケットは、赤いイヤーアクセがまさに80’s。おしゃれです。

W スタイリストの三宅由美子さんが本当にいい方でね。センスがあってフランクなお人柄。いつも新曲のイメージをさりげなく聞いてくださって、よく話していましたね。

M 林哲司さん作曲の『密林少女』は少し前のカウントダウン・コンサートで聖子さんがオープニングで歌ってみんな狂喜し、さらにアンコールでもリクエストに応えて「あの衣装、一回じゃさびしいと思ったの」と歌って下さり。何重にも同じ時間を共有している喜びに、もう涙がただこぼれるだけ(笑)。

W そういうところは聖子らしいよね。みなさんきっと喜んだでしょう。初めて武道館コンサートをしたときも、最後列に立ち見のファンの方がたくさんいるのを見て、後ろの席まで声をかけて手を振ってましたよ。サービス精神があって明るくて気が利く。デビュー前も、テレビ局や出版社に挨拶に行くたびに「あの子いいねぇ」と業界のみなさんに言っていただいて、ドラマやラジオ、CMが決まっていった。あれはもう天性のものですね。

 

CMで大ヒットしても
全く色褪せないエタニティが。


『Rock’n Rouge』1984年2月1日発売。カネボウ化粧品「レディ80BIO リップスティック」のイメージソングとしてオンエアー。シンセサイザーを駆使したポップなサウンドが春っぽさをさらに盛り上げた。B面の『ボン・ボヤージュ』も作詞・松本隆、作曲・呉田軽穂。初めての二人旅がテーマで、山間の線路にたとえた恋の描写にファンはシンクロ率100%超え。女子人気をさらに後押しした。

『Rock’n Rouge』は詞の調整が大変だったと聞いたことがあります。歌詞違いの途中バージョンが存在するという噂も。

W あの頃、化粧品CMの注目度はハンパなくて、コマーシャルソングに賭ける業界の気迫がすごかった。広告代理店の方もワンフレーズ、ワンフレーズにナーバスになって、確かに何度も調整しました。東銀座の試写室で映像と音楽を合わせたテストパターンを繰り返しチェックした記憶があります。タイトルは、広告代理店の方から「ルージュ」というキーワードをリクエストされて松本隆さんに相談したところ、「じゃあ若松さん、ロックン・ルージュはどう?」と。

M おしゃれですっ! しかし聖子さんはそれまで資生堂のCMが多かったのに、急にカネボウに変わったのは驚きました。

W そこは事務所の采配だと思いますが、サンミュージックはみなさん優しくていい方たちばかりなので、あの頃いろんなオファーがあって本当に断り切れなかったんだと思いますよ。それで契約期間が切れると次に。

M この曲はメロディの上下がすごくて。でも大ヒットして1984年のシングル年間売り上げでも上位。

W 確かに低いところから入って最後に一気に高くなるけど、ちょっと本人が歌いづらいくらいのほうが売れることも多いんです。音域の指定はあるけど、それよりあえて低かったり高かったりすると、不思議といい色合いが出る。このシングルはB面の『ボン・ボヤージュ』も人気が高くて、聖子も歌いっぷりがいい。聖子は全体のテイストを一瞬で掴んで表現力が爆発するのでね。歌詞の細かい部分まで読み込むというよりは、もっと直感的な感じ。アルバム最後の『Sleeping Beauty』もしっとりした世界がいいですね。

『ボン・ボヤージュ』は、「アリバイ」とか「ママ」という言葉もハマっていておしゃれでした。

W 細かい部分まで感情移入するわけではなく、あえて淡々と歌う部分もあったり、その距離感が聖子の才能。完全に同化しちゃうとフレッシュさが無くなりますから。

M なるほどー。先ほど出た南佳孝さんも2曲『ガラス靴の魔女』『不思議な少年』を提供されています。

W 佳孝は松本さんと組んでヒットを連発していましたよね。ジャジーなメロディがアルバムでも生きていますね。

M やはりソニー同士のほうが、オファーしやすかったんですか?

W いやいや、そんなことはない。所属レーベルや事務所は関係ないですよ。私がお願いしたいと思った方にオファーしていただけなんです。

M 今の時代アルバム全体の流れで聴くことも減りましたよね。聖子さんのアルバムはぜひ1枚通して聴いてほしいです。

W 本当にそうですね。曲順も全て私が決めていました。流れで心地いい展開になるようにね。シングルを先に持ってきたほうがいいという声もありましたが、シングルこそ後半にして新鮮な曲を頭にしていました。『Tinker Bell』について、どうして9曲だったのかとよく聞かれるんですが、並べたらこの流れが自然だったんです。当時はほとんどのアルバムがA面B面各5曲の10曲でしたが、聖子が忙しくて録音できなかったわけでも、何かをボツにしたわけでもないんです。

M そうなんですね。あと『いそしぎの島』の作曲で尾崎亜美さんが初めて起用されています。

W 亜美ちゃんはマネージャーから売り込みがあって。このときの出会いが半年後の『天使のウィンク』につながっていくわけですが、『天使のウィンク』はあまり時間がなくてね、「引っ越しの準備してますけど、いいですか?」と言われて、ダンボールだらけのお部屋で打ち合わせしたのをよく覚えてます(笑)。亜美ちゃんが思うそのときの聖子の印象を話してもらってね。

M 『天使のウィンク』はワクワクする曲なので、それこそ引っ越しや掃除のときにも聴いちゃいますね。

ありがとうございます。亜美ちゃんらしい元気が出る作品ですからね。

 

海外に憧れる若者に
強烈なインプレッションを与えた。

M 1984年の前半は、聖子さんは主演映画『夏服のイヴ』の撮影をニュージーランドでして。若松さんもそのサントラを作られたんですよね。

W そうです。確かに忙しかったねー。私は聖子の『野菊の墓』や『プルメリアの伝説』も映画音楽を担当したんだけど。このときはワールドワイドに勝負できるような洋楽的なサウンドにしたくて、渡辺貞夫さんに最初オファーしたんです。でも超売れっ子だから日程が合わなくて。若くして頭角を現していた日野皓正さんにお願いしたんです。それが良かった。

M 映画音楽はどんな風に作っていったんですか?

W 先に映画の映像を見せてもらって、各場面に日野さんと、日野さんのプロデューサーであるジャズ界のキーパーソン伊藤八十八さんと、『SUMMER DRESS』『YELLOW BEAM』といった感じでタイトルを付けていくんだけど。ワイワイ、あーでもないこーでもないとね。そういうのも含めて楽しかったよね。そこから曲のイメージを決めこんで作っていきました。しかも試写会が終わると、まっすぐ聖子が私のところに来て「音楽、すばらしかったです!」と言ってくれて。嬉しかったよね。

M 映画主題歌の『夏服のイヴ』はシングル『時間の国のアリス』のB面ですが、トランペットが印象的です。

W 南半球のイメージですね。舞台はニュージーランドですから。

M 南半球が季節が逆というのを、このとき理解した記憶です。映画、またどこかで公開してほしいですね。ということは、やはり1984年は映画の撮影が忙しくて『Tinker Bell』は9曲に?

W 違う違う(笑)。純粋に曲の流れなんです。私のYouTubeでもその質問は多いけど(笑)。

M しつこくて、すみません(笑)。それだけファンは聖子さんの新曲を1曲でも多く聴きたかったんでしょうね。最後に全く関係ないんですけど。前回Yahoo!ニュースになったとき6枚目のアルバムの『Candy』の中の2曲が途中でバージョン違いになった理由を聞いてほしいとツッコミがあり。アルバムの初期プレスとヴォーカルトラックや音のバランスが違うのはなぜだと。

W なるほど。それは自分じゃなくて、CD化したときにその担当者が変えたんだと思いますよ。CDに特別感を出したかったのかなぁ。

M 録りなおしたとかではなく?

W いやいや、そんなことはなかったよね。同じ日でも歌いこむと声は変わるし。マスターテープに残ってるからね。みなさんのこういう疑問、嬉しいですよ。そうやってずっと聖子を聴いてくださっている証拠ですから。まさに聖子の楽曲は歳を取らない。永遠に色褪せずにみなさんの心にある。

M 聖子さん自身もずっと変わらず素敵ですからね。次回は、マンハッタンの風を感じるとびきりPOPな10thアルバム『Windy Shadow』について。お楽しみに!

 

参照・平凡スペシャル1985 僕らの80年代

Profile

若松宗雄/音楽プロデューサー わかまつ・むねお

一本のテープを頼りに松田聖子を発掘。芸能界デビューを頑なに反対する父親を約2年かけて説得。1980年4月1日に松田聖子をシングル『裸足の季節』でデビューさせ80年代の伝説的な活躍を支えた。レコード会社CBSソニーではキャンディーズ、松田聖子、PUFFY等を手がけ、その後ソニーミュージックアーティスツの社長、会長を経て、現在はエスプロレコーズの代表に。Twitter@waka_mune322、YouTube「若松宗雄チャンネル」も人気。

Text: Kuki Mizuhara Photo: Miyu Yasuda

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