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岩下志麻さんの銀座の小さな物語 帝国ホテルに「ケテル」の赤ワインとフランクフルト。青春の日々

岩下志麻さんの銀座の小さな物語 帝国ホテルに「ケテル」の赤ワインとフランクフルト。青春の日々

表通りのキラキラ、裏通りのひっそりしたところ。歩けば誰しもが主役になれるこの街では、それぞれに小さな物語がある。7人のレディが綴る、銀座の街の素敵な素敵なおはなし。

帝国ホテルで待ち合わせ、堂々とデートをした、青春の思い出。

私ね、銀座生まれなんですよ。両親が四丁目にアパートを借りていたみたいで、そこで生まれたらしいんですね。すぐに大森に引っ越しちゃったので、その頃の記憶はまったくないんですけど。

だから、銀座に行くようになったのは、17歳で『バス通り裏』っていうNHKのドラマで芸能界デビューしてからですね。当時はスタジオが銀座にあって、そこで撮影をしていたので。学校のカバンを持って現場に行って、生放送で撮影をして、それが終わると出演者やスタッフの方々に混じってよく行っていたのが「銀座ACB」という音楽喫茶。ミッキー・カーチスさん、山下敬二郎さんといったロカビリーの歌手の方々が出演していたんですが、私はエルヴィス・プレスリーが大好きだったのでとても楽しかったです。でも、高校生でそんなところへ行くなんて、なんか不良だったみたいね、今思うと(笑)。

その次に思い出があるのが、21歳で小津安二郎監督の『秋刀魚の味』に出たとき。銀座に森英恵先生のお店があって、そこに小津組の衣装合わせがあったんです。普通は衣装合わせというと、衣装さんがそろえてきたものの中から監督と一緒に役に合うものを選ぶというのが多かったんですけど、小津先生の場合は森先生のところで生地から選んで作っていました。小津先生の映画には、1枚の絵を積み重ねていくような美学があったんでしょうね。その中で衣装というものをすごく大事になさっていたから、丁寧な衣装合わせをしたんだと思います。私は劇中で赤いスカートを履くことになったんですけど、24歳の役だったので「先生、24歳で赤いスカートなんて履きますか?」ってうかがったんですよ。そしたら「何言っているんだ。60になったって赤は着るんだよ」と答えられて。確かに、私は今でも赤いお洋服を着るので、とんでもないことを言ったと思っています。森先生のお洋服はそのときに初めて着たんですけど、大好きになってしまって。以来、20代の間はプライベートも含めて森先生のお洋服を買いに銀座へはしょっちゅう来るようになりました。

あとは、篠田(岩下さんのご主人である映画監督の篠田正浩さん)とのデートでも銀座へはよく来ました。並木通りだったかな、秀吉ビルっていうのがあって。その中に「ケテル」っていうドイツ料理のお店があったんですよ。そこのフランクフルトが美味しくて。帝国ホテルで待ち合わせをして、映画なんかを観た後に「ケテル」で赤ワインとフランクフルトを食べるということがデートコースでした。デートは変装もせずに正々堂々としていましたね。一度だけ帝国ホテルのロビーで雑誌『平凡』に写真を撮られたことがありましたけど。え? 『平凡』ってマガジンハウスの雑誌なんですか。それはお世話になりました(笑)。まぁ、今だったらもっとお忍びで逢わないといけないんでしょうから、それだと恋が成就してなかったかもしれませんね。そう言えば、歴史を聞くと「ケテル」の上にゾルゲ(第二次世界大戦前夜に日本で暗躍したソ連のスパイ)の愛人だった華子さんが務めていたバーがあったらしいんですよ、昔。だから、篠田が後に監督した『スパイ・ゾルゲ』には、ゾルゲが華子さんのところに訪ねていくシーンで「ケテル」がCGで再現されています。

今でも銀座にはかかりつけの歯医者さんがあるし、銀座に行くと気分が落ち着きますね。洋服、靴、和装小物など買い物はほとんど銀座です。だから銀座はよく行きますよ。そして銀座は私にとって青春時代の思い出の街。ちなみに、当時カラオケでは「銀座の恋の物語」を歌うことが多かったですね(笑)。[談]

いわした・しま=1941年、東京都生まれ。58年にNHKドラマ『バス通り裏』で女優デビュー。以後、『秋刀魚の味』『はなれ瞽女おりん』『鬼畜』『極道の妻たち』などに出演。春日太一によるインタビュー本『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』が発売中。

Artwork: Marefumi Komura Text: Keisuke Kagiwada

GINZA2018年12月号掲載

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