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本好きスタイリスト・伊賀大介さんがオススメする、身近に感じられる名作古典文学

本好きスタイリスト・伊賀大介さんがオススメする、身近に感じられる名作古典文学

1世紀以上もの間、読み継がれ愛されてきた古典文学。 その魅力について、作家、書評家、本好きスタイリストが語る。


小説家・読書家たちの

名作古典文学

面白い!難しくない!古典を愛する伊賀大介さんおすすめの3作品。

 

現代カルチャーを遡れば 古典文学が姿を現す

「え?これ100年以上前なの?」を合言葉に、現代の映画や演劇、ドラマや漫画につながるような3作を選びました。まず武者小路実篤『友情』。ちょうど100年前の小説ですが、これはもう最近の若者というか、久保ミツロウ『モテキ』みたいな話です。この小説にiPhoneを登場させるだけでそのまま現代に置き換えられるし、初めて読む人はスルッと簡単に読めることに驚くはず。男が理想を押しつけるのも、女性を女神扱いをするのも良くないと教えてくれる、みうらじゅん『アイデン&ティティ』的指南も入っています。小説の最後が手紙の文章で、本人不在の欠席裁判で主人公が打ちのめされるという構成も面白い。そして何といってもこの薄さがいい。短いから、いつでも読めちゃいます。

2作目は江戸時代の戯曲『曾根崎心中』。歌舞伎とATGの実写化映画を観た後に原作を読みました。僕は「世話物」というジャンルが好きで、『女殺油地獄』も『心中天網島』も面白いと思ったらすべて近松門左衛門の作品だった。この時代の浄瑠璃って実際の事件を膨らませて描いているんです。僕は映画も実録物をベースにした作品が好きだし、本も最近はノンフィクションばかり。事件の裏側にある人間の淀みや性愛、嫌な部分をきっちり書いて読ませるという実録物の魅力がこの作品には詰まっていると思います。最近観た映画だと、神代辰巳監督の『青春の蹉跌』が、やっぱり『曾根崎心中』の変形物でした。かたや江戸、かたや昭和という時代の違いはあっても人間の本質という意味では変わらないなと思わせる。破滅ジャンルというのは各国にありますが、日本の場合、特に恋愛沙汰となると近松にたどり着くと思います。原文が読みにくい場合は歌舞伎や人形浄瑠璃の動画で予習してもいいかもしれません。500年後にも1000年後にも、永久に残っていく傑作だと思います。

『羅生門』は黒澤明の映画から入りました。橋本忍という脚本家の自伝によれば、彼はまず『藪の中』を脚本にして、そこに『羅生門』を足して一本の脚本にしたんだそう。芥川龍之介のたくさんある作品の中から『藪の中』と『羅生門』を選んで合体させる着想もすごいし、原作を書いた芥川もすごい。そして、日本映画の歴史の中で、いまだこれを超える脚本は現れていないと僕は思っています。『羅生門』は、まず映画を観てから原作に当たって、脚本家が何をどう肉付けしたのか、どこを合体させたのか、と裏を取りながら読むのも面白いですよ。

古典が古典として系譜を止めず、違う解釈を施されて生き延びているということは、小説に限らずよくある話なんですよね。そうやって、新しいものの中でふいに古典に出合える瞬間があって、僕にとってはそれがすごく楽しい。100年どころか300年遡っても人間はたいして変わらないし、近代と現代なんてデバイスが違うだけでほとんど同じ。そう考えてみれば、古典の登場人物も身近に感じられるようになるんじゃないかな。僕はそんなふうに古典を楽しみながら読んでいます。(談)

 


伊賀大介さんの おすすめ3作

短い中にドラマが凝縮! 時代が変わっても古びない名作

曽根崎心中羅生門友情

1.『友情』 武者小路実篤(1919)
「現代にも通用する三角関係のフォーマットがすごい!」。恋と友情を軸にした青春小説にして、近代以降の文学や漫画にも大きな影響を与えた失恋小説。(新潮文庫/¥370)

2.『曾根崎心中』 近松門左衛門(1703)
1703年に起きた事件を題材に、事件の1カ月後から上演が始まった人形浄瑠璃の演目。「この作品によって心中ブームが起き、ついに禁止令が出されたそうです」(岩波文庫/¥940)

3.『羅生門』 芥川龍之介(1915)
『今昔物語集』に題材をとった、王朝物シリーズの掌編。短い文章の中で人間のエゴイズムを鮮烈に暴き出す。「『藪の中』とあわせて読んでみてください」(岩波文庫/¥520)

Profile

伊賀大介
いが・だいすけ

1977年生まれのスタイリスト。メンズファッション誌で仕事をスタート。映画を中心に、ドラマ、ミュージックビデオの劇中衣装などを数多く手がける。

Photo: Kaori Ouchi Illustration: Yousuke Kobashi Text: Hikari Torisawa

GINZA2019年6月号掲載

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