『プラザ』
(横山裕一/888ブックス/¥2,200)
ドドドドド。明るい地響きとともに現れる、人、人、人と不思議な装置。観客の歓声に包まれながら、異形の集団が紙面を横切っていくカーニバルの光景。圧倒的な祝祭の瞬間が、その連続が、物語から遠く離れてもなお膨らんでいく。美術家としても高く評価される横山裕一が、完成までに4年以上を費やして挑んだ「ネオ漫画」の最新形。二百数十ページのすべてのコマに、横山作品の象徴ともいえる擬音が書き込まれ、紙の外にまで音を響かせる。
『新版 近藤聡乃エッセイ集 不思議というには地味な話』
(近藤聡乃/ナナロク社/¥1,300)
小さな怪談のようであり、儚い夢のようであり、柔らかい思い出のようであり、美しい絵葉書のようでもある、58のエッセイと58の挿画。フラットな言葉で綴られる著者の感覚がするりと心の奥に根をおろし、気づけば読者も不思議を手繰り寄せている。『ニューヨークで考え中』『A子さんの恋人』などの漫画、アニメーションやドローイングなどを発表する現代美術の作家・近藤聡乃による初めての、そして現在のところ唯一のエッセイ集が新版で登場。
『波』
(ソナーリ・デラニヤガラ/佐藤澄子訳/新潮クレスト・ブックス/¥2,000)
2人の息子と愛する夫、そして両親。家族が奪われた時、世界はばらばらに解体されて色を無くした。2004年に起きたスマトラ島沖地震は「津波」という言葉さえも知らない多くの人を呑み込んだ。残された著者は、自らの中に生まれた濃密な恐怖に、あからさまなまでの哀しみの序列に支配されながらも、少しずつ家族の生活の断片を拾い集め、書き記していく。喪失を知るすべての人に消えない光を手渡してくれる再生の手記。