09 May 2019
次に読みたい本はどれ?韓国フェミニズム小説集『ヒョンナムオッパへ』etc. 5月号G’s REVIEW

『美しき瞬間』
(岡上淑子/河出書房新社/¥1,900)
記憶と記録をかけ合わせ、モノクロ写真に鮮やかな奥行きを与える。洋裁由来の鋏の技を自在に使って、ファッション誌やグラフ誌から《自分の夢にふさわしいものを切抜いて、黒のラシャ紙の上に組合わせ》る。1950年からの7年間で140点ものフォトコラージュを生み出し、「幻想の作家」とも称された岡上淑子。その代表作に、短くも奥行きのある言葉と小さな詩を併置した作品集は、透明に力強く、時代を超える美しさに満ちている。
『父と私の桜尾通り商店街』
(今村夏子/KADOKAWA/¥1,400)
「型にとらわれない」という慣用句がどうにも似合う、今村夏子はそんな作家だ。自らの心を隅々まで照らして心が求めるものだけを書いていく。穏やかで平易な文章にはユーモアがにじみ、不穏さが浮かび上がって読者を作品世界に接続させる。商店街で、部活で、スナックで、6つの短編のただ中で、健気に生きる主人公たちは、その懸命さゆえに周囲や世間からじりじりとずれてゆく。言葉によってすくい上げられるいくつもの違和に鳥肌が立つ。
『ヒョンナムオッパへ 韓国フェミニズム小説集』
(チョ・ナムジュ、チェ・ウニョン、キム・イソルほか/斎藤真理子訳/白水社/¥1,800)
隣の国から届けられた小説集。軸に「フェミニズム」を据え、多彩に豊かに広がっていく現在進行形の文学が7編収められている。描かれるのは、社会から、家族から、男性から、女性に向けられてきた抑圧の視線とそこから生まれる孤独。そして自由を手に入れるための、しなやかさとは別種の努力の軌跡だ。日常からSF、サスペンスにまで自在に伸びていく言葉が、私たちが抱えさせられてきた痛みを遠くに投げ捨てる腕力を与えてくれる。
Recommender: 鳥澤 光
ライター。韓国文学といえば!社会現象を巻き起こしている『82年生まれ、キム・ジヨン』もぜひ。
GINZA2019年5月号掲載